12 お肉以外も有効活用
感想、誤字脱字の訂正、ありがとうございます。
よく食べる男性陣に戦慄しております、サラナ・キンジェです、ご機嫌よう。
コース料理を食べた後、さらにメインクラスのお肉を平らげるなんてどういうお腹をしているのでしょうか。
「これがモーヤーンの肉…?以前食べたものと、全くの別物だ」
王弟殿下は以前、討伐で野営をしたときにモーヤーンを焼いて食べたそうですが、下処理と臭み消しの香辛料なしによく食べられたものです。私も下処理前の味見をしましたが、想像を絶する味でした。珍味って言われても、受け入れられないレベルで。臭さって、鼻に残るのよね。
「ほ、本当にモーヤーンの肉ですか?」
ペロリとステーキを平らげて、エルスト様が呆然としている。図鑑で見たモーヤーンと同じものでしたから、モーヤーンだと思いますよ?
「美味い!お代わりある?」
「俺も!お代わり!」
我が家のお兄様たちのお腹はきっと別次元に繋がっているのだわ。わんこ蕎麦みたいにお肉を食べないでくださいな。
「素晴らしい。ドヤール家の料理人は腕が良いのだな」
料理を供し控えていた料理長が、王弟殿下のお言葉に目を白黒している。
「と、とんでもない。私はただ、サラナお嬢様に言われるがまま、料理をしただけです。他にも沢山レシピをご提供いただいて、皆様にお褒めの言葉をいただいています!」
「何?」
驚いた王弟殿下に凝視されましたが、そんなに見られても何も出ませんよ。
「サラナ嬢は料理に詳しいのか?」
「ええ、まぁ。本を読むのが好きなので、そこから色々知識を得ていますね。大した事ではありませんよ」
私は言葉を濁し、曖昧に笑う。
「とんでもない事でございます!サラナ様から教えていただいたレシピはどれも見た事がないものばかりです!肉料理、魚料理、野菜にデザートまで、大変幅広い知識をお持ちで…」
「りょ、料理長!あ、ほら、兄様たちがお代わりのお肉が欲しいって言ってるので、お願いしてもよろしいかしら?」
ヒィ、やめて。王弟殿下の前で私の事を褒めたら、またご不興を買っちゃうでしょ。私は空気、私は空気なのよ。
かなり言い足りなさそうな料理長を厨房に返し、晩餐に元の澄ました顔で戻る。うん、私、もう食べ終わったから退出したいわー。ダメか。兄様たちが食事を終わるまでは。
「そういえば、サラナ。モーヤーンの毛を刈り取って保管していたでしょう?何かに使うの?」
伯母様からの突然の質問に、私はグヌッと息を呑んだ。な、なんで今聞くのかな?
「モーヤーンの毛?あのゴワゴワの毛か?」
そんなもの何するんだと、伯父様も不思議顔。
「もしかして、グェーの時みたいに布団にするのか?」
お祖父様も興味深々。そして、お父様の鋭い視線が怖い。はい、すいません、理由があって、後からご報告する予定だったんです。
「あ、あれは布団には向きません。洗浄して紡ぎ、毛糸として編み物に使おうかと…」
「編み物?」
だって。鑑定したら非常に上質な毛と出たんですもの。洗浄して紡いでもらったら、あれですよ。某ブランドの様な、すごく手触りのいい毛糸だったんです。これはもう、編むしかないでしょ。編み棒を作り、すでに作品は出来上がっているんだけど…。
「ええっと、試作品は出来ておりますが、まだお披露目出来るものでは…」
「モーヤーンの毛に使い道があるのですか?我が領では大量にモーヤーンが出るのだ!是非教えて頂けないか?」
エルスト様の勢いに、嫌ですーなんて言えるはずもなく…。
食事の後にお披露目する羽目になりました、トホホ。
◇◇◇
「こちらが、モーヤーンの毛を使用したマフラーです」
細めの毛糸を使用して編み上げたマフラー。毛糸でも上質だと思ったけど、編み上がった作品の手触りは柔らかくて少しもチクチクしなくて最高!うむ、編み目も凝ったので、自信作ですよ。
「これがっ?」
エルスト様が驚いて手を伸ばしてくるのを、私は慌てて避ける。
「み、見せて貰えないか?」
「あ、あの。申し訳ありません。先に、父にっ…」
私がお父様の元に走り寄ると、お父様は困惑した顔をする。
「サラナ?殿下とエルスト様に先にお見せしなさい」
普通はそうなんですけど。これは、これはダメです。
「いいえ!これは…、だって、再来週の、お父様への誕生日プレゼントなのです…」
忙しい合間を縫って、ようやく出来上がった作品なのです。孤児院の仕事とかニージェの仕事とかと並行してたから、死ぬかと思ったけど。もう一回編むとか時間的に無理だし。お父様の為に編んだのに、お父様に一番に見て欲しいじゃない。誕生日に驚かせたかったのに、チクショー。
「私の、誕生日プレゼント?もしや、サラナが作ってくれたのかい?」
お父様が驚き、目を見開く。そうなのです、手編みですよ。お父様の穏やかな雰囲気に合う、上品で素敵な仕上がりだと自画自賛しております。
お父様が目線で王弟殿下に許しを乞うと、殿下は頷く。エルスト様も手を引っ込めて、コクコクと頷いている。
「これは、凄く手触りが良いね。柔らかく、暖かい。あぁ、編み目も美しく、この模様がとても美しい」
お父様が目を細めて喜んでくださった。おおぉ、そんなに喜んで頂けると、嬉しいわぁ。
「サラナ、ありがとう。何より嬉しいプレゼントだ!」
お父様に抱き締められ、私は幸せな気持ちになる。うふふ。厳しい所もあるけど、やっぱり、お父様大好き。
お祖父様と伯父様が羨ましそうに見ている。ご心配なく。もちろん皆の分のマフラーも、取り掛かっておりますわ。
「これは…本当にモーヤーンの毛なのか?あのモジャモジャがこんなに素晴らしい手触りになるなんて!」
一緒に持ってきた毛糸と、編みかけのマフラーを撫でながら、エルスト様が大騒ぎしている。王弟殿下も毛糸を食い入るように見詰めていた。
「サラナ。これも事業化するのかい?」
お父様に聞かれ、私は首を傾げる。
「うぅーん。モーヤーンがドヤールでは殆ど取れませんから、難しいですね」
「そうだね。モーヤーンの肉の処理方法とレシピ、毛の紡ぎ方と編み方は利益登録出来そうだけど」
「なるほど。出来れば安価な使用料で設定したいですわ。モーヤーンの肉が食用になれば、貧しい者でも美味しいものが食べられるでしょう?正しい処理方法と調味料を知らしめる為には、登録はした方が良いのでしょうけど…」
「ならばレシピの使用料は無料で設定したら良い」
「まぁ、そのような設定も出来ますのね。伯父様、宜しいかしら?」
領主たる伯父様の許可を求めると、伯父様は晴れ晴れした笑顔を浮かべた。
「セルト殿が良いと言っているなら、問題ないっ!」
「ジーク様。領主としてのご判断を頂きたいのです」
お父様がちょっぴりため息を吐いて言えば、伯父様はピッと親指を立てた。
「良いよっ!」
軽い。絶対何も考えてないわ、全く。お父様もすでに諦め顔だ。
「毛の紡ぎ方と編み方は有料で利益登録しますわ」
「そうだね、こちらはそうした方が良いだろう。商人向けになりそうだし」
「モーヤーンの乱獲にならないと良いんですけど。魔物といえど、絶滅してはどのような影響があるか分かりません」
「え?魔物だから全て討伐した方が良いんじゃないのか?」
ヒューお兄様が不思議そうにしていらっしゃったので、私は首を振る。
「魔物といえど、安易に全て討伐するのは危険ですわ。例えば、モーヤーンを捕食している魔物がいたら、モーヤーンが居なくなれば他を襲うようになるかもしれません」
あんなデッカい魔物が更に大きな魔物に捕食されるなんて、特撮の怪獣映画みたいね。
「ああ、なるほどー。やっぱりサラナは頭が良いなぁ」
お兄様に純粋に褒められると、照れるわー。
「ふぅむ。うちの領なら領主の名の下にモーヤーンの討伐規制を掛けるかな?」
「そうですわね。同時に取扱う商会も登録制にして製品に数量制限を掛けますわ」
お父様と熱心に話し合っていると、その横でエルスト様が必死にメモを取っていた。あ、いかん。王弟殿下御一行様の事、忘れてたわ。
「あら、私とした事が。お客様の前でお恥ずかしいですわ。そろそろ私、退出いたしますね」
また何かアピールしてるとか思われたら心外だもの!退散、退散!
「ま、まってくれ、サラナ嬢!もう少しモーヤーンの討伐規制の事で聞きたい事がっ!」
「申し訳ありません、エルスト様。サラナはまだ成人前の子どもです。子どもはもう寝る時間ですので」
お父様が穏やかに、しかしキッパリとエルスト様に断りを入れる。
えぇ、私。まだ13歳の子どもですので、睡眠時間は親の監視下ですわよ。ほほほ。
「では皆様、お休みなさいませ」
わーい、終わったー。お兄様達から貰った新しい本。続きが気になっていたのよねー。
「サラナ。新しい本を隠れて読んではいけませんよ」
ぎくっ。お母様にチクリと言われて、心臓が跳ねた。
「も、勿論ですわ、お休みなさいませ、お母様」
隠れて読んで見つかった時の事が怖いわぁ。今日はサッサと寝ちゃおっと。
書籍化作品
「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。




