第十二話 議会の最中(さなか)に
世界会議はまだまだ続いていた。
「誠にケイハルト様はダルメキアから人間を一掃なさろうとしておられるのですか?」
「そこは直接ケイハルトの口から聞いた訳ではないので、はっきりとは言えませんが、集めた情報ではそうなりますね」
殆んどの者が困り顔で、唸る声があちらこちらから聞こえて来る。
その中で、再びブリューム国王が手を挙げる。
「なら、訊きたき事が」
「どうぞ」
「現存されるとすれば、ケイハルト様は今どちらに?」
「ブリュンデル城です」
「ブリュンデル城? 確かあの国は、二年程前に
忽然と消えてしまったと聞き及んでおりますが」
「はい、その通りです。ルジオーネ国はケイハルトの配下の者達に攻め込まれ、一日か二日程で陥落したと聞きました」
「馬鹿な。ルジオーネは軍事力は豊富な国であったはず。それが一日か二日で陥落したですと!?」
議会場がどよめきに包まれる。
「宜しいか?」
少し落ち着いた所で、何処かの王らしき一人が手を挙げた。
ビエントが指名すると、国名を告げてから話し出した。
「私の国デルオーラは、ルジオーネの隣国にあるのですが、ルジオーネ国が消えた後、我が国が
攻め入ったのではといらぬ噂を立てられて、大変困っておったのですぞ。如何して貰えるのか?」
「そうです。我が国も隣国ですが、同じ噂を立てられ、外交が滞っているのですぞ」
それを皮切りに、ルジオーネの隣国が次々と抗議の声を上げ、騒がしくなる。
「静粛に! 静粛に!」
ビエントが槍の柄の先で床を叩く音が何度も響き渡り、何とか静まって行く。
「その噂は聞き及んでおる。ケイハルトの事を隠しておったせいで迷惑を掛けたのも事実だ。十分に話し合わなければならんだろう。ただ、今は緊急を要する。ルジオーネ国が短期間で陥落した相手が動いておる事で分かって貰えるはず。風聞に関しては改めて議会の場を設けるとして勘弁して貰いたい」
少しずつ事態を把握して来た中で、抗議の声も上げ憎いながらも、納得出来ずに小声ながら口々に不満も洩れる。
そんな中、一人の王が手を挙げる。
「宜しいですか?」
「貴方は確か、オルタニア王ですね。どうぞ」
「もしかすると、ブリュンデル城と言うのは、先日中断させられた我が国の後継者を決める王位継承戦の最中に現れた浮遊していた城の事でしょうか?」
「左様です」
「浮遊ですと!?」
「城が空を飛んでいると言われるのか?」
「信じられん……」
口々に驚歎と怪訝の声が洩れる。
「ルジオーネ国を陥落した後、ケイハルトの配下達はブリュンデル城を飛行出来る様にしたようです。城そのものが消えた訳ですから、国が忽然と消えたなど、要らぬ風聞が広まったのかもしれません。問題は、空を浮遊しているので、その位置を容易に特定する事が出来ない事です。更に、その位置が分かったとしても、こちらから攻め入るとなれば、飛行タイプの魔獣を用意せねばならず、攻め込むのも困難です」
目を閉じて下を向く者、隣の者と話し合う者、様々な口論を交わす中、良い案もない。
「もう一つ宜しいでしょうか?」
紛糾する中、オルタニア王が再び手を挙げる。
「どうぞ」
「ブリュンデル城が現れた折、ケイハルトの配下と思われる者に、我が国の継承者の一人でもある我が息子、第一王子のデリオンが連れ去られました。何故連れ去られたのでしょうか?」
「その前に、ケイハルトはある人物を探しておりました。アルドと言う研究者を知っておいでですか?」
「アルド……アルド、ああ、確か悪魔の科学者と呼ばれていたあのアルドですか? 数年前に死んでいると聞き及んでおりますが。それが何か?」
「生前アルドは自ら作った幾つかの魔導具に細工をしていたそうです。その魔導具を装着した者は見た目は変わらずも、その意思は完全にアルドに乗っ取られるそうです」
「そう言えば、最近デリオンの声が……」
オルタニア王は、デリオン王子が連れ去られる前、デリオン王子の指輪から触手が伸びていた時の事を思い出す。
「では、あの時既にデリオンは!」
「ええ、恐らくはアルドとなっていたのでしょう」
「そんな……」
気を落とすオルタニア王に代わり、二人が新たに手を挙げる。が、
「緊急! 緊急!」
兵士らしき二人が、慌てた様子で駆け込んで来て、真っ直ぐ議長台に駆け寄って行った。
「何事だ。まだ議会中だぞ」
「誠に申し訳ございません。ですが、何者かの急襲を受け、苦戦しております」
議会内が騒めきで包まれる。
「恐らくケイハルトの手の者でしょう。予測はしていましたが。それで、どんな相手ですか?」
「数人の魔獣召喚士はそれほどでもないのですが、アックスを持った大男と、炎魔獣を遣う女がとにかく手強い相手で」
「炎魔獣を遣う女か。恐らくブレアだな。ならば私が行こう」
「私も参りましょうか?」
「いや、議長が不在となれば場が荒れるであろう。お前はこのまま議事を続けてくれ。ブレアなら説得出来るかもしれん」
「なら良いのですが。少しして戻って来なければ、私も出ます。それで宜しいか?」
「そうしてくれ」
ビエントは報告に来た二人の兵士を連れ、議場を後にした。




