第十一話 画策
漆黒の魔獣召喚陣からローブを纏った男シュレーゲンが姿を見せた。
「急に人が!?」
驚いたのはフラム達だけではなく、ケイハルトも同じであった。
「いやはや、少し遅かったようですね」
歩み寄って来たシュレーゲンに、ケイハルトは剣を向ける。
「おっとお待ちを。私は敵ではありませんよ」
「何だ、貴様は?」
「私はシュレーゲンと申します。あなたの崇拝者だと思って頂ければ宜しいかと」
「それを信じろと?」
「困りましたね。今は信じて貰うしかないのですが、早く処置をしないとそのままだと出血多量でお命が危ういかと。さあ、いかがなさいますか?」
シュレーゲンは漆黒の魔獣召喚陣へとケイハルトを手で誘う。
「逃がさないでヤンス!」
パルがシュレーゲンに向けて炎を吐くが、新たに現れた漆黒の魔獣召喚陣の中に消えて行く。立て続けに炎を吐くが、その悉くが忽然と現れた漆黒の魔獣召喚陣の中に消えて行く。
「無駄ですよ。さあケイハルト様、お早く」
ケイハルトは暫しヴァルカンの方を睨んでいたが、剣を鞘に納め、傷口を抑えつつ漆黒の魔獣召喚陣に向かって駆け出した。すると、その姿は漆黒の魔獣召喚陣の中に消え去った。
「それでは、これにて」
シュレーゲンもその姿を漆黒の魔獣召喚陣の中に消すと、魔獣召喚陣そのものも消え去った。
ブリュンデル城の謁見の間にある玉座に座るケイハルトは、勢い良く少し身を起こす形で目を覚ます。
「ぐわっ……はぁ……はぁ…………」
息は荒く、肌には多量の汗が滲む。
「ヴァルカンめ……」
苦々しい面持ちで、失った左腕の辺りを掴む。
「またあの時の夢で御座いますか?」
今まで誰の姿もなかった玉座の左側に、忽然とシュレーゲンが姿を現した。
「あの時もそうであった。お前はいつも突然に現れるな」
「それは褒め言葉と受け取らせて貰います。それより、お疲れなのではありませんか? もうその玉座にお座りになられて、どれぐらいになるか。たまにはベッドで横になられてはいかがですか? 今やこの城には、城を浮遊させられるだけの多くの魔獣召喚士もいる事ですし、何もケイハルト様ご自身が、お一人の魔力を使われずとも良いでしょう」
「見縊られたものだな。今の私は魔獣を召喚出来ぬ身、魔力は宝の持ち腐れ状態だ。こんな城を浮遊させる事も造作もない」
「これは要らぬ失言でしたかな。申し訳御座いません」
「それで、何をしにここに来た? わざわざ私を労りに来た訳ではあるまい」
「滅相もない。ケイハルト様の御体も誠に大事に御座いますゆえ」
「心にもない事を。まあ、良い。それで?」
「世界会議の事に御座います。何故にブレアとヴェルク加えた数人だけで向かわせたのですか?」
「その事か」
「確かに二人の実力は認めますが、あちらには五賢人が二人もいるのですよ。いえ、ダルメキアの要人が集まっているのです。護衛もそれなりの手練れが集まっているはず。とてもそれだけの戦力で手に負えるとは思えませんが」
「恐らくそうであろうな」
「は?」
シュレーゲンは眉を顰める。
「シュレーゲンよ、お前は私の崇拝者だと言っていたな。だとすると、私が何をしようとしているのか分からぬか? わざわざ要人があそこに集まってくれたのだ。この機を逃す手はなかろう」
悪辣な笑みを見せるケイハルトに対して、シュレーゲンは尚も怪訝そうな顔をしていたが、直ぐにハッとした顔をケイハルトに向ける。
「もしや!」
「ようやく理解したようだな。だからこそ少数の方が良いのだ。ヴェルクには何をすべきか、ちゃんと━━ん、誰だ、そこのおるのは?」
部屋の入り口近くに立つ柱の陰から、入り口の方に去って行く人影が見えた。
「あれはライオ様では?」
「何を考えておるのやら。まあ、あ奴ならば問題ない。捨て置け。それより、アルドの方はどうなっておるのだ?」
「そちらは心配ないかと。初めは渋っておりましたが、いざ研究を始めると、熱心に作業をこなしているようです。あの男も根っからの研究者のようですな」
「全ては私の思い通りに進んでいると言う事だな。もう直ぐだ。もう直ぐ……」
ケイハルトは自ら握った右の拳を嬉しそうに見詰めた。




