第四話 魔力による属性魔法の暴走
「……それがここで起こった悲劇の全てです。何故そんな事をしたのか、ケイハルトの真意までは測りかねますが、恐らくは抱き続けて来た野心がそうさせたのかもしれません」
「野心?」
「元々ケイハルトがルディア様の跡を継ぎたがっていたのは私を含む五賢人、いえ、ルディア様も薄々感じてはいました。それを考慮してか、ルディア様は若くしてケイハルトをまだ決めかねていた雷の魔獣召喚士を冠する事にしたのです。ケイハルトは雷魔獣の召喚に長けていましたからね。ただ、その事が逆に作用してしまったようですね」
「逆に?」
「あなたも知っての通り、ルディア様はあなたと同じ特異質です。そして、あなたの父エルベルトもまた特異質だったのですよ」
「父さんも……」
「自分が雷の魔獣召喚士に選ばれた事で、ルディア様の後継には、同じ特異質のエルベルトを選んだと勘繰ったのかもしれません。当のエルベルトは逆にまるで野心のない人間だったのですがね。ケイハルトの雷の魔獣召喚士にとの話を凄く喜んでいましたし、自分は家族でひっそり暮せれば良いとこの近くの小さな家で暮らしていた程でしたから。なのにケイハルトの野心は、エルベルトさえ殺してしまえばルディア様の後継者になれるとでも思ったのか、最悪の事態を招いてしまった」
「野心? そんなものの為に父さんと母さんが……」
話を聞く内に涙が流れ出していたフラムの顔には、ケイハルトへの怒りと憎しみが見て取れた。
溜息と共に首を軽く横に振るアインベルクがフラムの頭上に向かって錫杖を一振りすると、空気中の水分が凍って、小さな無数の氷の粒がフラムとパルの頭上に降り注ぐ。
「いてて……」
「痛いでヤンスよ……」
「頭を冷やしなさい。気持ちは分かりますが、その怒りと憎しみは抑えるのです」
「どうしてです? 両親と師匠を殺されて、怒るなと言う方が無理ですよ」
「それでも抑えなさい。あなたも魔法大学校に行っていたなら教えられているはずですよ。魔力による属性魔法の暴走を」
「オイラはとばっちりでヤンスよ」
頭を押さえているパルがぼやく。
「魔獣召喚士となった者は怒りと憎しみを増幅させてはならない。その禁を破れば、その怒りと憎しみが魔力に作用し、己の持つ属性の力が暴発し、自らを滅ぼすであろう━━でしたよね」
「そうです。秘めた魔力、そしてその怒りと憎しみが大きければ大きい程に暴発は大きくなります。あの時、ルディア様がケイハルトを殺し、暴発していれば、このダルメキアそのものが消滅していたかもしれません」
「ダルメキアが……」
「おっかないでヤンス」
「確かに、怒りや憎しみを収めるのは簡単な事ではありません。あのルディア様でさえ、ケイハルトを斬る寸前まで行ったそうですから」
「どうやって抑えたんです?」
「直前に体に変調を来した事もありますが、頭に過ったそうですよ、ケイハルトの家族が」
「ケイハルトに家族が?」
「何処で出会ったのか、あんな男にもアニエと言う妻と、ライオと言う息子がね」
フラムはハッとしてアインベルクを見た。
「ライオ? 今、ライオとおっしゃいました?」
「あなたはライオを知っているのですか?」
「何度か会ってるでヤンス」
「ええ、王位継承戦にも参加していましたし」
「そうですか。血の繋がりでしょうか。とても偶然とは思えませんね」
「あれ? でも確か、ライオの名前はアスカールじゃなくて……そう、ビルニークだったと思うけど」
「恐らくそれは、母親の旧姓でしょう。色々と不都合があるのでそう名乗っているのかもしれません。あなたもアスカールと名乗れるでしょうが、同じ様に不都合もあるでしょうから、そのままの方がいいでしょうね」
「変えろと言っても変えませんよ。師匠の事は親とも思ってますし、名前も気に入ってますから」
「本当でヤンスか?」
「何よ」
フラムとパルは睨み合う。
その姿に、余り表情すら変えないアインベルクが微笑む。
「本当に仲の良いこと。ルディア様があなたを育てるのにパルちゃんを付けて正解だったようですね」
「あれ? パルを召喚したのは師匠ですよね」
「ええ、召喚したのはヴァルカンですが、そう進めたのはルディア様ですよ」
「そうだったんだ……」
「オイラも初めて聞いたでヤンス」
「あら、パルちゃんにはちゃんと話をしたと思いますけど。覚えていないのかしら、この頭は?」
真顔に戻ったアインベルクが、錫杖の飾りでパルの頭を叩き始める。
「痛い、痛い、また始まったでヤンス。痛い……」




