第十二話 呆気ない幕切れ
「それで、あんたは私と勝負しに来たわけ?」
「そうしたいのは山々なんだけど、どうやらあんたはその喋るだけが取り柄の魔獣のせいでドジ踏んじゃったみたいだし」
「喋るだけが取り柄って何でヤンス!」
「ぎゃあぎゃあ言ってるそれを言ってんのよ。まあ、魔獣召喚士としてはやるなら魔獣もまともな魔獣同士でやりたいし」
「オイラもまともな魔獣でヤンスよ!」
余りに散々な言われようにパルが飛び出そうとするも、フラムがその首根っこを掴んで止める。
「それで、じゃあ何でここに来たわけ?」
「あんたが私以外の変な奴にやられるのも癪だし、今回だけは手を貸してやろうと思ってね」
「手を貸す? あんたが私に?」
「今回だけは特別よ。代理人に選ばれたらその時はちゃんと勝負させて貰いますからね」
「何か言い訳がましいけど、私も負ける訳にはいかないから今回だけは手を借りるわよ。じゃあパル、あんたはシャルロアの方に加勢してあげて」
「でも……」
「あっちはかなりヤバそうだから」
パルも意地を見せたい所だが、シャルロアの方もオロドーアが今まで孤軍奮闘していてかなりへばって来ていた。
少しイグニアを睨みつつも、シャルロアの方に飛んで行った。
「さあ、こっちは暴れましょうか」
「あんたと一緒に戦うなんて、どれくらい振りかしらね」
「さあね。じゃあ、行くわよ!」
イグニアのフラントを前にして、フラムとイグニアは激しい戦いの中へと飛び込んで行く。
フラントが地魔獣のボロンゴに飛び掛かり、その後ろから飛び出したイグニアがボロンゴの持ち主に斬りかかって躱された所を、更に後ろから飛び出したフラムが腹部に剣で峰打ちして気絶させる。
一人、更に一匹、そして一人と、フラム達の前に次々と失格者が生まれて行く。そのコンビネーションは、パルと組んでいる時以上だ。
「おおっと、これは凄い! 三十七番と八十四番の見事なコンビネーション! 次々と参加者が減って行く! ああっと、あっちは二十五番と四十一番が激しい戦いを繰り広げている!」
二十五番はライオで、四十一番はシュタイル、フラム達がオルタニア国に来た時に争っていた二人だ。
「あっちには行かない方がいいわね」
フラムが戦いながら言う。
「どうして?」
イグニアも戦いながら訊く。
「見ていれば分かるわよ」
ライオとシュタイルが剣を交える度に、スパークして辺りに稲妻の様なものが幾筋も飛び散り、合間を見て二人に襲い掛かろうとした者や、近くで戦っていた者が、次々と倒れて行く。
「何なのあれ、おっかないわね」
「分かったでしょう。恐らくあの二人は最後まで残るでしょうから、迂闊に近寄らないのが賢明なのよ」
時間も深まるにつれ、最初に居た参加者も半数ほどが失格となった時だった。
「六十七番、失格!」
「あれ、六十七番ってシャルロアじゃなかったっけ?」
「フラム!」
シャルロアの下に加勢していたはずのパルが、血相を変えてフラムに飛び寄って来た。
「まずいでヤンス!」
「まずい?」
「もう一人のシャルロアでヤンス!」
オロドーアはやられたのかへばってしまったのか、生きてはいるものの大の字に倒れてしまっているが、失格になったはずのシャルロアはやられた様子もなく、しっかりと立っていた。
いつものオドオドとした様子もなく、凛とした表情を見せるシャルロアは、手にしている錫杖を振り上げる所だった。
「イグニア、周りに炎の壁を作って!」
「一体何なの?」
「いいから早く!」
訳が分からずも、イグニアはフラントに命じて炎を吐かせ、飛んで来たパルを含めて自分達の周りに炎の壁を生み出した。
その直後、シャルロアが錫杖を地面に突き立てると、そこから幾筋もの氷の道が勢い良く走り、それに触れた参加者達が次々と氷の彫刻と化して行く。
氷の道は一瞬にしてコロッセオ全体に広がり、周りを囲む炎の壁のみが凍って逃れたフラム達、そして魔獣を盾にしたり属性の技を駆使した数名を残して、コロッセオを氷の展覧会としてしまった。
シャルロアは引き抜いた錫杖を、足元に広がる氷に突き立てようとするが、
「シャルロア、ダメ!!」
フラムの声に反応したのか、突き立てる寸前で気を失って倒れてしまった。




