第十話 出足は上々
「フラムさん、どうなさいます?」
今まで動向を窺っていたシャルロアが不安気に声を掛けると、フラムは意を決した顔で立ち上がる。
「決まっちゃったものはどうしようもないわ。言っていた通りシャルロアはオロドーアを召喚して。ただ、昨日言っていたプランは変更よ。シャルロアには是が非でも私と一緒に最後まで残って貰うわよ」
「わ、私もですか!? 無茶ですよ。オロドーアは強いですけど、私自身は棒術は全然ですし」
「あなたは私とパルでフォローするわ。パル、あんたも胸を張った以上、援護ぐらいはやって貰うわよ」
「任せるでヤンス!」
「まったく、調子いいんだから。でも、やって貰わないと困るわよ。シャルロアもね」
「分かりました。出来る限り頑張ります」
シャルロアも腹を括り、錫杖を突き立てて魔獣召喚陣を作ってオロドーアを召喚する。
「オロドーアさん、頼みます。私とフラムさんを守って下さい」
オロドーアは任せろと言わんばかりに胸を何度も拳で叩く。が、
「気合が入ってるわね。でも、シャルロアは守っても、私は守ってくれないでしょうね」
「でヤンス」
苦笑いするフラムとパルの方は全く眼中にはなさそうだ。
「さあ、どうやら準備が整ったようなので試合を始めさせて貰います」
ディユロは、腰にぶら下げている角笛を手にすると、目一杯吹き鳴らした。
始まりの合図の角笛の音を掻き消さんばかりの歓声が巻き起こる中、参加者達も一斉に動き出す。
「フ、フラムさん、ど、どうしたら宜しいんでしょうか?」
「私が召喚した魔獣が居たら先手を打って出る所なんだけど、まずは様子見の方がいいでしょうね」
「オイラも一応魔獣なんでヤンスけど……」
「一応ね」
先に動いて危険を冒すよりも、ある程度人数を減らすまで下手に動かないでおこうとしたのだが、周りはそうさせてくれそうにはなかった。
近くに居る四人が、始まりの合図と共に魔獣を連れてフラム達を標的に歩み寄って来る。
ディユロとの遣り取りでフラムが自慢の魔獣を召喚する事が出来なかったのが知れてしまった事で、弱いものから減らそうとする輩が真っ先に狙って来るのは必然であろう。
「弱い者イジメしようって連中が雁首揃えちゃって」
「何とでも言え。これは試合だ。どう戦おうがルール違反じゃないからな」
「まあ、それもそうね。アランガに、ブランドー、ヒュービ、ウィギルか。これだったらパルだけでも十分ね。いけるわね?」
「大丈夫でヤンス」
「随分と舐められたものだ」
四人それぞれが怒りを見せる。しかし、直ぐにフラム達に襲ってくる様子もなく、寧ろ互いに隙を窺う素振りを見せる。
元々四人は仲間でもなく、徒党を組む気もないようだ。
「あらあら、こっちにしては願ってもない事だけどね!」
様子見する事なく動き出したフラムは、近くに居るウィギルが突風を口から吐き出す間も与えずにその頭上を飛び越え、その持ち主である魔獣召喚士の女に剣を抜き様に峰打ちして気絶させる。
それを皮切りにまずいと思ったのか、残った三人は共闘とは行かないまでも一斉にフラムに向かって襲い掛かって来た。
「パル、ヒュービの足止めを!」
フラムが指示を出すとほぼ同時に肩から飛び立ったパルは、ヒュービに向かって炎を吐く。
不意を突かれたヒュービのお尻に炎が灯り、ヒュービは慌てて冷気を吐いて炎を鎮火する。
その間に向かって来たアランガの体当たりを軽く躱したフラムは、その主人の魔獣召喚士が振るって来た剣を躱しつつその首筋にまた峰打ちを食らわして気絶させる。間も与えずに襲って来たブランドーが吐く炎を躱して、その主人の魔獣召喚士の槍の突きを剣で弾いてから三度その首筋を峰打ちして気絶させた。
最後に残った一人は、持ち魔獣のヒュービがお尻を焼かれてへこんでいて、飛び廻るパルを手持ちの杖を振り廻して叩き落そうとしている所を、背後から忍び寄る。
杖持ちの魔獣召喚士が後ろを振り返った所で、フラムがその胸元に剣の切っ先を向ける。
「ま、参った」
ほんの一瞬の間に四人が倒れ、静まり返っていた近くの客達が、一気に湧き上がる。
「十八番、四十三番、六十九番、七十八番、失格!」
フラムは飛び寄って来たパルをハイタッチで迎える。




