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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第十話 氷の女王

 エドアールが抜き放った剣は、オロドーアに動く間も与えずにその胴を真っ二つにする━━かに見えたが、寸前の所でフラムが抜き放った剣が受け止めた。


「ほう、私の剣を受け止めるとは、女にしてはなかなかやるではないか」

「生意気言ってんじゃないわよ。前に会った時は私に一度も勝てなかったくせに」

「誰が勝てなかったと? お前など知ら、知ら……」


 フラムの肩にとまっているパルを見たエドアールの表情が一変する。


「その小竜は、あの時の喋る魔獣か!」


 不意にオロドーアが振り下ろして来た拳を、エドアールは飛び退って躱して距離を取った。


「お前はあの時のじゃじゃ馬娘か!」

「誰がじゃじゃ馬娘よ!」

「あれ、フラムさんはお兄様と知り合いなのですか?」

「随分と前だけどシャルル、じゃなくてシャルロア、あなたにも会っているのよ。あなたはまだ小さかったから覚えていないでしょうけどね」

「そうなんですか?」

「そんな事より何故お前がここにいる? そうか、お前がシャルロアに城を出るように(そそのか)したんだな」

「失礼な。シャルロアに会ったのはたまたまよ」

「本当です、お兄様」

「ええい、そもそもそれはどうでもいい。力ずくでも連れて帰るぞ」


 エドアールが合図を送ると、周りで今まで成り行きを見守っていた兵士達も剣を抜いた。

 フラムも剣を構え、オロドーアも威嚇を見せ、一触即発の雰囲気が漂う中、


「双方、そこまでです!」


 あらぬ方から、厳格な女性の声が飛んで来た。

 その場の全員の視線が集まる中、シャルロアが持つ錫杖に似た錫杖を持ち、売り払った防寒着に似た豪奢な防寒着を着ている年配の女性が姿を見せた。頭上の冠がその威厳を際立たせている。

 その周りには、身の周りの世話をしていると思われる男女数人と護衛と思われる兵士達の姿もあった。


「母上!」「お母様!」


 剣を抜いていた兵士達も慌てて鞘に戻し、片(ひざ)を地に落として敬礼を見せる。


「随分と大勢の気配を感じたので来てみれば、何事です。まあ、察しは付きますが。ただ、どうしてそこにフラムも居るのですか?」

「私はアインベルク様に会いに来たんですけど、たまたまシャルル、じゃなくてシャルロアに出会って、まあ、色々と……」

「まあ、それは後で訊くとして、シャルロア、あなたは早く城にお戻りなさい」


 アインベルクの思わぬ申し出に、シャルロアだけではなく、周りの全員が一驚する。


「でも、お母様は私の結婚には反対なのでしょう?」

「そうですよ。ですが、その事で城では大変な事になっているのでしょう。それは感心しません」

「でも……」

「ワガママは許しませんよ。まず、そこのオロドーアを戻しなさい。あなたには従順そうですが、それだけに暴れ出してはエドアールも大変でしょうから」


 オロドーアはアインベルクの言葉を理解したのか、その敵意をアインベルクに向けようとしたが、アインベルクの目を見た途端にその体がガタガタと震え出した。

 シャルロアはオロドーアの事を思って、渋々ながら召喚陣を作り、その光の中にオロドーアを戻した。


「さすがは氷の魔獣召喚士を冠する五賢人」

「氷の女王でヤンス」


 パルの言葉を聞いた途端、アインベルクは急につかつかとフラムに歩み寄って来た。周りのお付きや兵士もそれに続く。


「相変わらずパルちゃんはお喋りね。その呼び方は嫌いだと、以前にも申したはずですよ」


 持っている錫杖の飾り部分でパルの頭を木魚のように叩き出した。


「痛いでヤンス! 痛いでヤンス! やめて欲しいでヤンス!」

「相変わらず笑いながら叩くのが怖い」


 フラムも苦笑いするしかない。


「母上、感謝いたします」


 シャルロアは、エドアールの兵士に連れていかれる。アインベルクにああ言われては、従うしかなかった。


「勘違いしないで。私は今でも結婚には反対ですよ。ただ、城の動揺が民にまで広がっては大変ですからそうしたまでです。あの頑固オヤジにもそう伝えなさい」


 エドアールも苦笑いを残し、アインベルクに敬礼してからシャルロアを連れた兵士達と共にその場から去って行った。


「まったく、エドアールも従順過ぎるが故にあの頑固オヤジに似てしまって、困ったもんだわ。さあ、私達も参りましょうか」

「その前に、叩くのをやめて欲しいでヤンス……」


 パルの頭は赤く少し腫れ上がっていた。


「あら、ごめんなさい」

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