第十五話 またまたまた来た
「わざわざ追って来たのか?」
「お腹が減っただけよ」
食事を始めて直ぐ、キザ男が話し掛けて来た。
パルはテーブルに降り、食事するのに夢中になっている。
「この席になったのもたまたまですからね」
「念を押す事もないだろう」
もう一言何か言い返してやろうとするも、空腹が食事を優先させる。そのせいもあってか、フラムとパルの方が食事を先に済ませた。
キザ男もさほど遅れる事なく食事を済ませたのだが、
「ライオと言うのはお前か?」
いつの間にかフラム達のテーブルに、ガラの悪そうな二人の男が歩み寄って来ていた。
「だったら何だ?」
キザ男━━ライオは、男達の方を向く事なく訊く。
「女を侍らせて、いいご身分だな」
「ちょっと待って。私は単なる相席しているだけで、この人とは関係ありませんからね」
「それで、用件は?」
「用件だ?」
男の一人が突然テーブルを激しく叩いた音に、周りは一瞬にして静まり返る。
「お前がここら一帯の魔獣をぶっ倒していってるおかげで、こっちの仕事が無くなっちまってるんだよ」
「確かにあれじゃあね……」
フラムは苦笑いする。
「それで、どうしろと?」
「ゾーレ大陸から出て行け」
「それは無理な話だ。まだアリューシャの森のライジャットを倒してないからな」
フラムは思わず声に出そうな言葉を飲み込んだ。それと同時に、パルの口も手で塞ぐ。
「俺の言う事が聞けねえってのか? なら仕方がねえな」
二人の男は剣の柄に手を掛けた。しかし、
「やっと見つけたわよ!」
「ややこしい所に、またややこしいのが来たわね」
渋い顔をするフラムの視線の先には、勢い良く向かって来るイグニアの姿があった。
「退きなさい!」
男二人を押し退け、フラムの前に出る。
「今度こそ、あんたより先にアリューシャの森のライジャットの牙を手に入れてやるんだから」
今度はライオの方が少しばかり反応を示す。
「おい女、勝手に割って入るな!」
「何なのよ、あんた達は?」
男達とイグニアが揉めていると、そこに大きな影が伸びて来た。
「お客さん、店で揉められちゃあ困りますね」
店員と思われる二メートルを超える屈強そうな大男が指の骨をポキポキと鳴らしながら歩み寄って来て、否応なくイグニアと男二人の首根っこを摑んで軽々と持ち上げ、店の外に連れ出して行った。
静まり返っていた店内は、また賑わいを取り戻した。
「お前もアリューシャの森のライジャットを狙っているのか?」
「まあね。その牙が欲しいだけなんだけど」
ライオはそれ以上は何も言わず、食事代をテーブルに置いて席を立ち、外に出て行った。
「私達も行くわよ」
フラムもテーブルに食事代を置いて席を立つ。パルも大きくなったお腹を摩り、飛び難そうにフラフラしながらフラムの肩にとまる。
「重い……」
外に出ると、少ない人通りながら聞こえていた人の声もなく、静まり返っていた。
その原因は、ライオと先につまみ出された二人の男だった。対峙するその二組の今にも何か起こりそうな雰囲気に、町人達はそそくさと何処かに逃げて行き、遠目にイグニアの姿があるだけだった。
男の一人が指笛を吹くと、あちらこちらの建物の間から、ガラの悪そうな男達が次々と姿を見せた。
「あらあら、こんなに居たの。どうする、手を貸そうか? タダでとはいかないけどね」
「こんな時までお金でヤンスか」
フラムがライオに声を投げ掛けるが、フラムを一瞥しただけでライオの返事はない。
「どうやら助けは無用って事かしらね」
集まった数はざっと二〇人程度か。
「どうした。お前は魔獣召喚士と聞いてこっちはこんなに集まったんだ。魔獣を呼ばなくていいのか?」
「人間相手に必要ないだろう」
ライオは剣を抜いた。すると、その剣は雷魔獣の体のようにスパークを見せる。
それを見たフラムは驚きの顔を見せる。
「あれって!?」




