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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第二章 里帰り

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 第六話 また来た

 日が少し傾いていた。

 ディコの案内で滝壺から川を下り、さほど遠くない場所に辺りを見渡せる程の開けた場所にやって来た。


「ここなら良さそうね」

「どうするの?」

「下準備よ」


 フラムはその場にしゃがみ、右手を地に下ろす。


「アルシオンボルトーア!」


 召喚陣が現れ、光を放つ。

 立ち上がったフラムが召喚陣を前にして印を組む。


「魔界に住みし属性なき魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」


 両手の印が形を変える。


「出でよ、魔獣ドゥーブ!」


 召喚陣の光が増し、その中から五匹のドゥーブが次々と飛び出して来た。

 それを見たディコが目を輝かせる。


「うわ、ドゥーブだ! カワイイ!」

「ドゥーブ、ここら一帯に大きな穴を掘ってちょうだい。急ぎでお願いね!」


 五匹のドゥーブは次々と鳴き声を上げ、穴を掘り始めた。


「ここはこれで良しと。さあ、滝壺に行きましょうか」


 何をしているのか訳が分からず、ディコは首を傾げながらもフラムの後について滝壺に向かった。


「問題はこっちよね」


 滝壺から少し離れた場所に身を隠せる場所があり、フラム達はそこから滝壺の様子を(うかが)っていた。

 もう観覧できる時間を過ぎたのか、観光客の姿は全く見られず、逆に辺りを巡廻している兵士らしき姿が目に付くようになっていた。


「何とか兵士の目を引き付けられればいいんだけど」

「だったら私が引き付けてみる」

「それはダメ。お父さんとお母さんに危険な事はさせないって約束したでしょ」

「オイラが行くでヤンスよ」


 パルが気を利かせて飛び立とうとしたその時、


「バカ女、ようやく見つけたわよ」


 聞き覚えがある声が後ろから聞こえて来た。

 フラムとパルは溜息を洩らす。


「またあんたね」


 振り返ると、イグニアが腰に手を当てて立っていた。


「まったく、何なのよ、あの依頼は。何でこの私がペットの捜索をしなきゃあいけないのよ。おまけに報酬も大したこともないし」

「報酬を貰ったって事は、ちゃんと依頼はこなしたって事ね。そもそもあれは、あんたが勝手に持って行った依頼でしょう。大体何であんたがここに居るのよ。依頼書は私が持ってるのに」

「これのこと?」


 イグニアは胸元から一枚の紙を取り出した。そこには紛れもなくフラムが持つ依頼書と同じ条文が書かれている。

 フラムはまた溜息を洩らす。


「何枚も依頼書を配って、数うちゃ当たるって事ね。ヴェルテスさんも気を利かせてくれればいいのに、よっぽど仲介料が良いようね」

「お姉ちゃんたち、知り合いなの?」

「違うわよ!」


 二人の声が揃った。


「息はピッタリでヤンス」


 フラムは拳でパルの(あご)をグリグリする。


「あんたの事だから、この法外な報酬の依頼を受けると思って追っかけて来たら、ドンピシャだったわ」

「フラムの事を良く分かってるでヤンス」

「腰抜けのあんたはどうせ勝負は受けないでしょうから」

「誰が腰抜けよ!」

「だったら受けるのかしら?」

「フラム、ダメでヤンスよ」

「分かってるわよ。昔だったらそんな挑発にでも乗ったでしょうけど、今は大事な依頼があるのよ。受ける訳ないじゃない」

「そう、だからこの依頼を受けたのよ。あんたより先に達成して、あんたが悔しがる顔を見てやろうと思ってね」

「相変わらず性悪よね」

「あんたが勝負を受けないのが悪いのよ」

「依頼だけは渡さないわよ」

「さっきから見てたけど、そんな所でこそこそしてるようじゃあ絶対に無理よ」


 イグニアは駆け出し、フラムの横を駆け抜けて行く。


「ちょっと!」


 フラムは呼び止めるも、動こうとはしなかった。


「追わないの?」

「まあ見てなさい。いい所に、お(あつら)え向きの人間が来てくれたから」

「でヤンスね」


 滝壺の近くまで来たイグニアは、その場にしゃがみ込む。しかしそこに、二人の兵士が駆け寄って来た。


「おい、そこの女、何してる? 今はもう観覧時間外だ。そもそもここは立ち入り禁止区域だぞ。早々に立ち去れ」

「何言ってんのよ。私はここに居るフリゴメに用があんのよ」

「お前こそ何を言っている。そこにある看板が読めんのか? ここに居る生物の捕獲や殺傷は禁止だ」

「そんなの知ったこっちゃないわよ。こっちはあのバカ女より先にフリゴメの髭を手に入れなきゃなんないのよ」


 イグニアは矢継ぎ早に剣を抜いた。

 驚いた兵士も慌てて持っている警笛を吹き鳴らす。すると、あちらこちらから兵士が次々と集まって来る。


「予想通り始めたわね。ディコ、長い竿(さお)のような物と長めのロープはないかな?」

「家に戻ればあると思うけど。どうするの?」

「後で必要になるの。持って来てくれる?」


 ディコは(いぶか)しげな顔をしながらも、家の方に戻って行った。


「さて、頑張って暴れてちょうだい」

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