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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第二章 里帰り

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 第四話 アンチエゴ大滝

 ダニャーレを出たフラムは、フィールと言う翼を持つ炎魔獣を召喚し、その背中に乗る所だった。


「ご主人の依頼を後廻しにして本当にいいでヤンスか?」

「師匠の依頼はしなくてもいいってヴェルテスさんが言ってたでしょう。それに私個人用の依頼だし、イグニアに内容を知られない限り、他の人がする事はないでしょう。こっちは、あちこちに貼ってあるって言ってたし、誰がやるか分かんないでしょう」

「やっぱり金でヤンスか」


 溜息を洩らすパルの目には、依頼書を見るフラムの目が最早(もはや)お金にしか見えなかった。


「えっと、ここからだとアンチエゴ大滝が近いかな。フィール、北東の方に向かって」


 一鳴きしたフィールは飛び上がり、向きを変えつつ北東へと向かった。


 フラムを乗せたフィールの行く手から、滝が流れ落ちる音が微かに聞こえて来て、それが徐々に近付いて来ると共に轟音に変わって行く。


「相変わらず凄い滝ね……」

「でヤンスね」


 現れた滝は、全長一〇〇メートルは超える荘厳(そうごん)な滝だった。

 近くには町が見え、滝の上部と下部に観光客らしき姿も見られた。

 フィールは滝壺から流れる川の近くに舞い降りた。

 フラムはフィールから降りるなり、召喚陣を出してフィールを光の中に消し、直後に召喚陣も消した。


「さてと、ここは生き物を獲るのも禁止だし、どうするかよね」


 近くに見える大きな立て札には、『アンチエゴ大滝に住む生き物の捕獲、また傷付ける及び殺生を硬く禁ず』と書かれている。


「まったく、面倒くさい依頼をするもんよね。傷付けちゃいけないものからどうやって髭を取れって言うのよ。こうなったら召喚したフリゴメの髭を取って渡して━━」


 フラムが愚痴を溢している最中、滝壺から巨大な物体が飛び出して舞い上がった。氷魔獣のフリゴメだ。

 滝の上部と下部に居る観光客からどよめきと歓声が上がる中、激しく水飛沫を上げて滝壺の中に消えて行った。


「何なのよ、あのバカでかいフリゴメは? 見た事もないわよ」

「あれじゃあズルは出来ないでヤンスね」

「やっぱり、ここのフリゴメじゃなきゃいけないって事か。勘弁してよね」

「おい、そこの女。ここは立ち入り禁止区域だぞ。早々に立ち去れ」


 警備をしていると思われる兵士らしき二人がフラムの方に寄って来る。


「ここで面倒を起こすのもなんだし、一旦引き下がりますか」

「おい、そこの子供もだ」

「子供?」


 いつから居たのか、兵士が向かって行く方向に、女の子が滝壺の方を神妙な面持ちで見詰めて立っていた。


「またお前か。おい、ディコ、ここには入るなと何度も言っているだろう」


 ディコと呼ばれた女の子は、なかなか動こうとはせず、兵士達は強引に連れて行こうとする。


「ちょっと、ちょっと、子供相手にそれはないんじゃないの」


 慌ててフラムが止めに入る。


「この子は私が連れて行くから」

「まあ、こっちはその方が助かるんだが」


 フラムに諭されて、ディコは渋々ながらようやくその場を離れた。


「ねえ、名前は何て言うの? 私はフラムよ。こっちは━━」

「パルでヤンス」


 ディコは驚いて少し離れる。


「しゃべった!?」

「あ、驚いた? ゴメンなさい。こいつは少し変わってて、喋れる魔獣なの。害はないから安心して。だから急に喋っちゃダメだって言ってるでしょう」

「ゴメンでヤンス……」


 しょげるパルの姿に、ディコはクスクスとようやく笑みを見せる。


「私はディコ。この先にあるアンチェンって言う町に住んでるの」

「ディコ!」


 後方から聞こえて来た声に振り返ったディコは、駆け寄ってくる女性の姿にまた渋い顔をする。


「お母さん……」

「姿が見えないと思ったら、またここに来てたのね。ダメだって言ったでしょう。あら、そちらは?」

「兵士のおじさんに連れて行かれそうになった所を、お姉さんが助けてくれたの」

「そうなんですか? それはまた、助かりました」

「いえ、いいんですよ。それより、何か訳ありみたいですけど、話してくれませんか?」

「訳と言う程のものではないんですが。まあ、とりあえず家へ参りませんか? お礼も兼ねてお茶でもお出ししますよ」


 母親の勧めで、ディコの家に行く事になった。


 

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