最終話 止められぬ挙行
「どうした? 疲れて来たのではないか?」
余裕を見せるケイハルトに対し、アインベルクとビエントの動きは確かに鈍りつつあった。
「そちらは少し戦った後ゆえ、少し手を抜いてやっていたが、やはり老いたな」
「まだまだ!」
「強がるな!」
ケイハルトの剣がビエントの三叉戟を弾き、その体に斬りつける寸前、アインベルクの錫杖が割って入る。
返す刀でケイハルトの剣が今度はアインベルクに向けられるが、それをビエントの三叉戟が止める。
「ほう、昔から相性は良くなさそうであったが、こういう時は阿吽の呼吸か。ならば、これはどうだ!」
ケイハルトの剣がスパークする。
それを受ける度に、ビエントの三叉戟をに、アインベルクの錫杖に、雷撃が流れ込む。
体に流れ込むまでは防げてはいるものの、武具を持つ手が雷撃を受ける度に痺れて行く。
「お前達の属性は私の属性と相性が悪いからな。完全に防ぐ術はなかろう」
手が痺れて武具を落とすのが先か、斬られるのが先か、時間の問題にも見えた。
「残念だな。ダルメキアが滅びゆくのを見れなくてな!」
もはや勝利を確信し、不敵な笑みを見せるケイハルトの動きが止まり、その笑みは一瞬にして消え去った。
「お前は」
ケイハルトの剣を割って入って来たフリードの剣が受け止めていた。
「邪魔するぜ」
「あと少しと言うものを。本当に邪魔だ。それは確かにゼクスだな。お前、何者だ?」
「フリードって、旅の剣士さ」
「フリード? ああ、確か迅速と呼ばれている男だな。噂は聞いている。老いぼれの剣聖の元に居た事もな」
「へえ~、あんたに知って貰えているとは光栄だね。ただ、先生の悪口は頂けないな!」
フリードが合わせている剣の刃を滑らせるようにして、ケイハルトに突きかかるも、軽々と躱される。
更に間髪入れずに突きかかる剣がいつの間にか槍の様に変化している。
今度は横薙ぎに振るうそれが大剣のように変わっている。
その全てを躱されてはいるものの、反撃する隙を与えず、ビエントとアインベルクの二人を相手にしていた時の余裕を表情から消していた。
「この短期間でゼクスを上手く使えるようになるとは、さすがは先生の弟子ですね」
「感心している時ではないぞ。我々も今一度」
「言われなくとも分かっていますよ」
再びビエントとアインベルクが戦いに加わり、先程とは完全に形成が逆転した。
「くっ、さすがに三人が相手となると」
「では、私も加えて貰えますかね」
フリードの剣を弾き返したのはシュレーゲンだった。
「何処から現れやがった?」
フリードは勿論、ビエントとアインベルク、更にはケイハルトさえも、いつ何処から現れたのか気付かなかった。
「何処に行っていた?」
「ジェモグリエの召喚にかなり魔力を使いましたので、少し休ませて貰いました」
「全く、いつもお前は神出鬼没だな」
「それは褒め言葉ですかな? それはそうと、お遊びはここまでとなさいませ」
シュレーゲンが加わった事で、フラムとシャルロアも加勢しようと駆け寄って来るのが見える。
「これ以上は面倒な事になりそうだ。この体にも馴染んで来たようでもあるしな」
「させるかよ!」
フリードがシュレーゲンの剣を弾いてケイハルトに斬り掛かろうとするが、シュレーゲンも直ぐに剣を返してフリードの剣に合わせる。
「こいつ!」
今度はシュレーゲンに集中して剣を振るうが、その悉くが合わせられる。
その間にビエントとアインベルクがケイハルトに駆け寄ろうとするが、戦いの最中に裂け目から上がって来て死んだと思われる魔獣が死魔獣と化して、二人の行く手を阻む。
「ちゃんと手は打ってありますよ。さあ、ケイハルト様」
「抜け目ない奴よ。それが頼りにもなる」
ケイハルトは笑みを浮かべつつ、右手を天に掲げた。
「アルシオンボルトーア!」
空は元々曇っていたが、更に分厚く
黒く染まった雲が集まって来て、ケイハルトが居る場所を中心にして渦を巻き始めた。
「何が始まるってんだ?」
「ここまで来れば私の力はいりませんね」
フリードが一瞬だけ上空に気を取られている間に、シュレーゲンの後方には漆黒の魔獣召喚陣が現れていた。
「私もこれで退場させて貰いますよ」
「おい、待て!」
フリードが剣を振るうより早く、シュレーゲンは漆黒の魔獣召喚陣と共に消えてしまった。
「さあ、ダルメキアの終わりの始まりだ」
《最終章へ続く》




