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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第九章 サバイバル

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 第十二話 最後の手段

「フラムから伝言でヤンス」


 寄って来たパルが真っ先に口を開く。


「フラムはあそこで何をしようとしているのです?」

「急ぐからって、何をするかまでは言わなかったでヤンス。ただ、フィールから飛び降りた先にフラムが通れるぐらいの氷のトンネルを作って欲しいって、アインベルク様とシャルロアに伝えて欲しいって言ってたでヤンス」

「フィールから飛び降りると言っていたのですか? まさかあの子!?」


 アインベルクは驚きの表情を空を旋廻するフィールに向ける。


「お母様はフラムさんが何をしようとしているのか分かるのですか?」

「恐らく。でも、今それを説明している場合ではありません。降りる先に氷のトンネルと言ってもここからではジェモグリエの体が邪魔で無理ですから。私の錫杖は十傑ですが斬る事や突く事は無理ですからね。とは言え、正面に廻るにも時間が。ビエントが居ればよいのですが、こんな時に、あの馬鹿は何処に言っているのやら」


 今度は露骨に苛立ちを見せる。

 シャルロアとパルは、五賢人を馬鹿呼ばわりに、苦笑いするしかない。 


「お~い! 何か問題でもあったのか?」


 そこに、フリードが駆け寄って来た。


「早くしないと燃える前に甦っちまうぞ」

「丁度良き所に来ましたね。あなたが持っているのはゼクスでしたね」

「ええ、まあ」

「ならば、今、フラムが乗るフィールの真下辺りまで、ジェモグリエの体に人一人が通れるだけの穴を開けて欲しいのです」

「俺が? いや、俺は剣遣いだから、この炎の中この魔獣の腹に穴を開けるってのは、その間に丸焼けになっちまうからな」

「あらあら、先生はいつもながら何も教えてないようですね。そのゼクスを槍を構える様に構えて、イメージをゼクスに伝えるのです」

「槍? この剣に?」

「理屈は抜きです。早くなさい!」

「はい!」


 アインベルクの叱責に、訝しるフリードは背筋を伸ばして慌ててゼクスを槍を構えるように体勢を整え、目を閉じる。

 すると、ゼクスの柄の部分が長く伸び、槍のような形状になった。

 フリードとシャルロア、パルは感歎の声を洩らす。


「ゼクスは他の十傑とは違い、刃だけではなく剣そのものの形状をイメージで変えることが可能なのです。全てとは言いませんが、いくつかの武具を兼務できるのです」

「凄いな、このゼクスってのは」

「ただ、利点がある半面、扱い難さやゼクス自身がなかなか所有者を認めず、ルディア様が長く所有していたのですよ。それよりも早く、ジェモグリエの体に穴を開けなさい」

「形状が変わるのは分かったけど、今まで槍を使ったことがないからな。どうやったら穴を━━」

「先程ジェモグリエの体を斬った時の様に斬撃を突きに変えればよいのです。さっきも言いましたが時間がありません。出来るかではなくやらなくてはいけないのです。さもなければ、フラムの方が丸焼けと━━いえ、ジェモグリエと共に灰になってしまうでしょう」

「フラムが!?」


 フリードとシャルロア、そしてパルの視線が揃って上空に向けられた。

 その先に飛ぶフィールの背では、フラムが燃え盛るジェモグリエを見下げて何かを探していた。


「確かこの辺りと思うんだけど。こう燃えていたら見辛いわね……」


 その時、何処からともなく吹いて来た強風が、ジェモグリエの体を包む炎を一時的に押し退け、その体を見やすくする。


「あそこだ!」


 フラムは迷うことなくフィールから飛び降り、ジェモグリエの体を包む炎の中に飛び込んだ。

 ジェモグリエの巨躯を包む業火の中でも、フラムの体を焼く事はなかった。それは、フラムがフィールから飛び降りると同時にその体の周りを冷気で包み込んだからだ。


「さすがにこの戦いに参加して来た魔獣召喚士が召喚した炎魔獣の炎ね。冷気の膜を張ってもかなり熱い。間に合って……」


 体から水蒸気を上げつつ降下して行く先には、ジェモグリエの炎袋があった。

 何とか燃えずに辿り着き、


「恨むんなら、あんたを甦らせたシュレーゲンって奴にしてよね!」

 

 降下しながらヴァイトで炎袋を縦に斬り裂いた。

 着地と同時に背後から強めの風がフラムを通り過ぎる。

 振り返った目の前を塞ぐジェモグリエの体には、人一人分は優に通れる穴が開いていた。

 更にその穴の周りを氷が覆って行く。

 斬り裂いたジェモグリエの炎袋から勢い良く炎が噴き出す中、フラムは駆け出す同時にヴァイトを元の二本の剣に戻して鞘に納めながら足を止めず、氷のトンネルへと飛び込んだ。

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