第十話 ドラゴンスレイヤー
「さっきから何なんだよ、このバカでかい魔獣は?」
「全くあんたは記憶も頼りないんだから。ウィルの村で戦ったでしょう。覚えてないの?」
「相変わらずでヤンス」
「ウィルの村? そうか、あの時の竜魔獣か。でもちょっと待てよ。あの魔獣なら倒しただろう」
「馬鹿な奴が死魔獣として甦らせたのよ」
「死魔獣!? こんなバカでかいのが死魔獣って、どう倒せってんだよ?」
「だからあんたにも手伝えって言ってんでしょう」
シュタイルはうんざりと言わんばかりの溜息を吐く。
「仕方がない。力をひけらかすつもりはないが、こいつの討伐ぐらいは手伝ってやろう。ツェントの試し切りにもなるだろうからな」
「知らないんでしょうけど、斬ったぐらいでは死魔獣は死なないのよ。第一、斬るって竜魔獣をどうやって斬るって言うのよ」
「お前こそ気付いていなかったのか?」
「何を?」
今度は上空からジェモグリエの右の頭が口から吐いた炎が降り注ぐ。
飛び上がったシュタイルが頭上でツェントを激しく廻転させると、降り注いだジェモグリエの炎が辺りに分散される。
更に、シュタイルがジェモグリエに向けてツェントを縦に一閃すると、ジェモグリエの体に大きな傷が開き、ジェモグリエの双頭の悲痛な叫びが響き渡る。
その傷は徐々に塞がって行くが、確実に斬れると実証はされた。
地面に着地したシュタイルは、ツェントに付いたジェモグリエの血を振り払う。
「十傑はその全てが基本、龍殺しの剣だ」
「え、そうなの!?」
フラムとフリードは自分の剣をまじまじと見る。
「考えれば分かる事でヤンス。ジェモグリエの炎袋を斬り裂くのも、普通の剣じゃ無理でヤンスよ」
「あんたも知らなかったでしょう」
いつものフラムの拳がパルの顎に。
「遊んでいる暇はないぞ。あいつを斬るのは俺とそいつでいいだろう」
「俺?」
フリードが答える。
「あいつが死魔獣なら、その後に燃やせばいいだろう。あいつを燃やせる程の魔獣を召喚出来るか? お前は炎魔獣を召喚出来るんだろう」
「まあ、火力ならヴァルボラガでしょうけど。吹き付けて燃やすなら、フレイバルドかしら━━って、燃やせば消滅するって知ってたの?」
「誰も知らないとは言っていないだろう」
「確かに言ってないでヤンス」
「何をあんたが乗っかって言ってんのよ」
フラムがパルの口を両側から引っ張る。
「遊んでいる暇はないと言ったはずだ。出来るのか? 出来ないのか?」
「本当に気に障る言い方しかできないのね。出来るわよ。フレイバルドを召喚すればいいんでしょう」
「それは私が許可しません」
割って入るように錫杖の鈴の音が近寄って来る。
「アインベルク様」
「アインベルク? 氷の女王か」
シュタイルが口にした言葉に、フラムとパルが慌てるが、時既に遅し。
「その呼び名は好みません」
張り詰めた空気が二人の間に走る中、アインベルクが眉を顰める。
「おや、あなた何処かで……そうです。あなたはシュタイルですね。小さき頃の面影がありますよ。随分と久しいですね」
「懐かしむ暇もないはずだ。今はこいつをどうにかする事が先決だろう」
「口の利き方が悪いのも変わってませんね」
「やっぱり昔からあんな風だったんだ」
「恐らく、嫌な子供だったでヤンスね」
フラムとパルは揃って強く頷く。
「でも、どうしてフレイバルドを召喚したらダメなんですか?」
「詳しくは言えませんが、状況によってはあなたの魔力が必要になるかもしれません。だから、今は魔力を多く消費する上位魔獣であるフレイバルドを召喚する事は許可出来ません」
「だったらどうする。これほど大きな魔獣を燃やせる程の術があるのか?」
「何もフレイバルドを召喚しなくとも、数を集めれば良き事です」
「お母様!」
遠くから聞こえて来たシャルロアの声に目を向けると、シャルロアの姿と避難させていた兵士達の姿があった。
それも、敵味方関係なく。
「炎魔獣を召喚出来る者達を連れて来るようにシャルロアに頼んでおいたのです」
「ケイハルトの部下も居るようだけど」
「ケイハルトに斬り捨てられたと伝えて、手を貸すように諭しなさいと言っておいたのですが、どうやら成功したようですね」
「数で燃やせるかどうか分からないけど。やってみるしかないわね」
「でヤンスね」
パルがきりっとした顔をジェモグリエに向けた刹那、飛び上がったオロドーアの拳が後頭部に炸裂する。
「痛いでヤンス!」




