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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第九章 サバイバル

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 第四話 残る可能性

 前を走るトゥルムは、少しずつ距離が離れて行く。


「あの子、足が速いわね」

「フリードといい勝負でヤンス」

「また見失うと厄介ね。パルは先にトゥルムを追って」

「フラムはどうするでヤンス?」

「せっかく修行だって言うんだから、やれるとこまでやってみるわよ」


 フラムは足を止め、追って来る魔獣の方に向き直り、ヴァイトを身構える。しかし、


「そこを退いて!」

「何?」


 突然後ろから飛んで来たトゥルムの声に、後ろを振り返ろうとした刹那、フラムとパルの間を割るように、無数の触手の様なものが通り過ぎ、追って来た魔獣の体に巻き付いた。

 暴れる魔獣を諸共せず、触手は魔獣を勢い良く引っ張り、驚くフラムとパルの間を抜けて戻って行く。

 フラムとパルが振り返ると、トゥルムの目の前に漆黒に輝く魔獣召喚陣が輝き、そこからの伸びている無数の触手が捕まえている魔獣と共に一瞬にして漆黒の魔獣召喚陣の中に消えて行ってしまった。


「今のって、アルドが使う魔導具から出て来るのに似てるわよね? それにあの魔獣召喚陣はシュレーゲンが使うものと同じ」

「でヤンス」


 目の前の魔獣召喚陣が消えると共にトゥルムが駆け寄って来た。


「大丈夫だった?」

「そんな事よりトゥルムも魔獣召喚陣が使えるのね。凄いじゃない」

「ま、まじゅうしょ? ああ、ベンテの事か。さっきは急に襲われて出す間がなかったから。あれぐらいのベスティオなら怖くないさ」

「なるほど、どうやらベスティオって魔獣の事なのね。にしても、さっきのベンテだっけ、あれから出ていたものは何なの?」

「あれはトラーセって言うベスティオの手さ。ベスティオの力を吸って生きている奴でね」

「本当によく似ていたけど、アルドもこっちに来た事があるのかしら。まあ、今はそんな事はどうでもいい事よね。今は修行に集中しないと。あんな魔獣がゴロゴロいるとなると、出口に辿り着くまで確かに強くなれそうだけど、魔獣の召喚が制限されているんじゃあ、ヴァイトだけで戦うには心許(こころもと)ないわね」

「あれ、言ってなかったでヤンスか? 魔獣は召喚していいって剣聖が言っていたでヤンスよ」

「はあ? 全く聞いてないわよ。そんな大事な事、もっと早く言いなさいよ!」


 フラムがヴァイトをパルに向かって振り廻すが、何とかパルは躱す。


「危ないでヤンスよ! 忘れてただけでヤンス!」

「忘れてただけって、先に言ってたら私だって逃げずに済んだじゃないの!」

「お前達、遊んでないで逃げるぞ」

「どうしたのよ、急に? 魔獣が召喚出来るなら、そんじょそこらの魔獣ならあいてにならないわよ」

「いや、オガンドは俺でも倒せない」

「オガンド?」


 声を揃えたフラムとパルが、トゥルムの視線を追って訝しげな目を後ろに振り向けると、そこには森の木々から頭一つ抜けた大柄な見た事もない魔獣が立っていた。

 鼓膜を破らんばかりの咆哮の大音量に、思わず耳を塞ぐ。


「次から次へと知らない魔獣のオンパレードでヤンス」

「でも、トゥルムとなら何とかなるかも━━て、また先に逃げちゃってるし! だから、ちょっと待ってって!」






「まあ、こんな感じでヤンスね」

「だから、さっきから何であんたが偉そうに話してんのよ」


 まるで聞いた風もなく素知らぬ顔をするパルの頭に、オロドーアの拳の一発がお見舞いされる。


「何するでヤンス! 痛いでヤンスよ!」


 オロドーアは怒りを露に何かを訴える。


「小さいのに偉そうに言うなって言ってます」


 シャルロアの通訳だ。


「小さいのはお互い様でヤンスよ!」

「まあいいわ。そんな感じで魔界では何度も死にそうになったわよ。で、結局先生は直接手解きをすることもなかったし。剣聖とはよくも言ったものね」

「昔からそう言う方なのですよ。ただ、気付いてみれば強くなっている。私も。皆も。あなたもそうでありませんか?」

「確かにそうかも。で、私はそのトゥルムの案内もあって、迷わずに剣聖の所に辿り着いたけど、その時フリードはまだ来てないって聞いたし案内がなければ出てこられるかどうか」

「元々方向音痴もあるでヤンス」


 フラムも納得するように何度も頷く。


「では、あのジェモグリエと言う魔獣はどうにもならないのですか?」


 シャルロアの不安げな言葉に、オロドーアが再び任せろと言わんばかりに胸を叩く。


「だからあなたには無理ですよ」


 不安げな顔が苦笑いに変わる。


「もう一つだけ手立てがあるわ。死魔獣は掛けた術士が死ねば術も解けるって剣聖が言っていたわ」

「ええ、私も聞いた事があります」


 三人の視線が、空を飛ぶグリードの背に乗るシュレーゲンに向けられた。

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