第十九話 合格
「フラム!」
我慢出来ずにパルが飛び出すより早く、ウォルンタースが合成死魔獣の横を駆け抜けた。
剣が再び杖に戻った刹那、合成死魔獣の体が幾重にも引き裂かれ、その全てが炎に包まれる。
「助かった……」
フラムはその場にへたり込む。
「最後の詰めが甘いのは頂けぬが、剣の使い方はまあまあ合格と言った所かのお」
「それじゃあ、これで修行は終わり?」
「何を甘い事を言うておるんじゃ。これは修行の前の修行じゃと言うたじゃろう。ヴァイトとゼクスをある程度は使い熟せるようにとな」
「まだこれ以上があるっての……」
大きな溜息と共に項垂れるフラムの肩にパルが降り立つ。
「へこむ事はないぞ。お主は合格じゃと言うておるのじゃからな。儂の戦い方を見て、ヴァイトに二つの属性の力を込めるとは、さすがはルディアの孫と言った所か。まあ、儂は五つの力を同時に扱えるがな。ほっ、ほっ、ほっ」
「自慢でヤンス」
「子憎たらしい爺さんだわ」
「何か言うたかの?」
フラムとパルは慌てて首を振る。
「まあ良いわ。それよりも問題なのはあ奴かの」
フリードは相変わらず構えるゼクスを重そうに、フラフラとしている。
周りにいる死魔獣達も、変わらずに踏み込めないでいる。
「全然進歩がないのお」
「先生、こっちにも助言を下さいよ。おっとっとと……」
「何を言うておる。フラムにも大して助言はしておらんわ。そちらも少し危機感を煽らねばならんかのお」
ウォルンタースは再び合成死魔獣を生み出そうと指で指示を送ろうとするが、手を止めて窪地の上の方を見渡した。
「これはこれは、死臭を嗅ぎ付けて、お誂え向きの連中が寄って来おったか」
「何、あれ?」
窪地の上部の淵に、巨大な魔獣の姿が一つ、二つ……全部で六つ現れた。
「グラルドン。魔獣の掃除屋じゃ」
「魔獣の掃除屋?」
「人や魔獣などの臭いを嗅ぎ付けて、骨一つ残さず喰い尽くす貪欲な魔獣じゃ」
「正に魔獣の掃除屋でヤンス」
「でも、見た事も聞いた事もないけど」
「ここら一帯にしかいない魔獣じゃ。この辺りは魔界から魔獣が出て来やすいからのお。その屍もまた多いから、居座っておるのじゃろう」
グラルドン達は斜面を滑り落ちる様に降りて来るなり、手近に居る死魔獣達を襲い始めた。
反撃する死魔獣達をグラルドン達は圧倒し、死魔獣達を仕留めて行く。
ただ、元々死んでいる死魔獣は死ぬ事はない。
それでも構わずにグラルドンは死魔獣の体を食い千切り、その肉を胃袋に納めて行く。更に骨まで食べ尽くし、死魔獣が甦る余地を作らない。
まだまだ数多く残っていた死魔獣も、いつの間にかその数をかなり減らしていた。
「さすがに魔獣の掃除屋ね」
「凄い食欲でヤンス」
数を減らした事で、食い扶持を外れたグラルドンの二匹が、未だにゼクスを持ってフラフラしているフリードに歩み寄り、身を低くして唸り声を上げる。
「完全に狙われてるでヤンスね」
「手を貸さなくて大丈夫ですか?」
訊ねる先はウォルンタースだ。
「手を貸しては何も変わらんじゃろう。ここは自力でなんとかするしかないのお。ほっ、ほっ、ほっ」
「本当に何も教えてくれないのね」
「でヤンス」
ふらつくフリードが何処に剣を下ろすかが分からなくて踏み込めずにいた死魔獣とは違い、グラルドンは飛び込む間合いを図っている。
臨戦態勢の一匹が、フリードが少し後ろにふらついたのを見て、一気に飛び掛かった。
さすがにフリードもそれに気づいてゼクスを何とか振り下ろすが、グラルドンは素早い動きで軽々と躱してしまった。
それを見てもう一匹のグラルドンがフリードに襲い掛かる。
ゼクスを振り上げる間もなく、フリードはゼクスを横薙ぎに振って対処するも、これも軽々と躱されてしまった。
「まったく重い剣だぜ。せめてフラムの剣みたいに扱いやすくなったら━━そうか、こいつも変わるかもしれないよな。もう少し刃が細身になってくれたら」
ぼんやりとだが、頭の中でイメージを浮かばせると、ゼクスが変化を見せた。
幅広の刃を持つ大剣だったゼクスの刃が並の剣ほどの刃の幅に変わり、刃がかなり長いだけの長剣に変化した。
「おお、当たりだな。これで重さもかなり軽くなったぞ」
感触を確かめる様に素振りするフリードは、いつもの剣を振る感じとさほど変わらない。
「ほっ、ほっ、ほっ、ようやく気付きおったか」
「剣の形状が変わった?」
「十傑は持つ者によって形状が変わるのじゃよ。所有者が一番使い易いようにのお。お主が持つヴァイトとて、前の所有者とは形状が異なるのじゃよ」
「へえ~、そうなんだ」
「じゃが、ゼクスには更なる特徴があるがのお。まあ、それはオイオイじゃな。とりあえず、フリードも合格で良いじゃろう」




