第十八話 自分なりの戦い方
新たなる武具を手に入れたフラムは、水を得た魚の様に死魔獣を斬り裂いて行く。しかし、斬り裂かれた死魔獣は、再び傷が塞がって襲い掛かって来る。
結局斬る速さは上がったものの、数は全く減っていない。
「楽に斬れるようにはなったものの、これじゃあ切りがない。どうしろって言うのよ」
「ほっ、ほっ、ほっ、ただ単に斬るだけなら元の剣でも構わんじゃろうて。その剣を使う意味、それにお主が特異質である意味をよく考える事じゃ」
「そんな事言ったって……とりあえず、燃やせば復活しない訳だから」
フラムが持つ剣の二つの刃が炎に包まれる。
飛び掛かって来た死魔獣を斬り裂くと同時に、その体を炎に包む。
灰と化した死魔獣は、甦る事はなかった。
一匹、また一匹と、死魔獣を灰と化して行く。
「おお、やるな」
「お主は人の関心をしておる場合でもなかろうに」
フリードは相変わらず剣を持ちあげたまま、右往左往している。
ただ、フラムの方も、直ぐに剣の刃を包む炎の勢いは徐々に小さくなって行き、やがて消えてしまった。
「こちらもまだまだのようじゃのお」
「そんな事言ったって、そもそも属性の力を剣に込めるやり方を教わりに来たのに、コツぐらい教えてくれてもいいんじゃないの?」
「コツのお」
ウォルンタースは腕組みをし、深く考える。が、
「そんなもんはない」
「はあ!?」
「例えばじゃな」
すっと上げたウォルンタースの広げた五指に、親指が炎に包まれ、人差し指に岩のようなものが纏われ、中指には氷が、薬指に風が竜巻の様に渦を巻き、小指がスパークする。
「感覚を研ぎ澄ますと、ほれ」
それぞれの五指に纏われし五属性が、手品でも見るかのように指を変えてコロコロと入れ替わる。
「凄いでヤンス…………」
「感覚って言われたって」
死魔獣の相手をしながらフラムは愚痴を溢す。
「そうじゃろうのお。これならどうかのお?」
ウォルンタースが死魔獣達に向かって何やら指で指示を送ると、数匹の死魔獣が集まり、その体同士が同化し始め、一匹の大きな死魔獣へと変化を遂げる。
「何なの、これ?」
「元々体なき死骸じゃ。どう言うものにも変化出来るんじゃよ」
「そうじゃなくて、何でパワーアップさせてんのって事よ」
「反則でヤンス」
「追い詰められた方が感覚が研ぎ澄まされるじゃろう」
「その前にへばって殺されちゃうわよ」
「その時はその時じゃ。ほっ、ほっ、ほっ」
「恐ろしい人でヤンス」
「分かったわよ。こうなったらやってやろうじゃないの」
覚悟を決め、合成された死魔獣に向かって構えを取る。ただ、引き締まったその表情は、徐々に引き攣って行く。
更に次々と周りから死魔獣が集まり、合成された新たなる死魔獣は、頭が八つあり、その大きさはフラムの倍以上はある。
「こんなのとどうやって戦えって言うのよ!」
上空からそれぞれの頭が、様々な五属性の力をフラムに向かって吐きつける。
炎、冷気、突風、雷、更には石の塊と、雨あられのよう降り注ぐ攻撃に、フラムは辛うじて躱すのが精一杯だ。
「フラムが殺されるでヤンスよ!」
「これはちとやり過ぎたかのお」
ウォルンタースが杖を居合抜きのように構えた刹那、その姿は消え、一瞬にしてフラムの目の前に現れた。
驚くフラムの目の前で、杖の鞘から抜いた仕込み剣で、降り注ぐ五属性の力を軽々と弾き返して行く。
「逃げ廻ってばかりじゃあ、何も出来んぞ」
「そんな事言ったって……それにしてもどうやってあれを…………」
よく見ると、ウォルンタースの剣は、弾き返す五属性の相対する力で包まれている。
「属性の力をあんな速さで切り替えて。さすがに剣聖って呼ばれるだけある。私にはとても……でも」
「少し頭を減らすかのお」
「ちょっと待ってください!」
前に出ようとしたウォルンタースをフラムが呼び止める。
「このままでやらせて下さい」
フラムが持つヴァイトの刃がそれぞれ炎と氷に覆われている。
「それぞれの刃に違う属性を込めれば、切り替える速さを補えるはず」
すっと前に出たフラムは、降り注ぐ五属性の力をヴァイトの刃で薙ぎ払って行く。
炎の剣で冷気を弾き、氷の刃で炎を弾く、その間に使っていない刃を次に使う属性の力に切り替える。
「ほう、あれじゃと一つの刃にずっと同じ属性の力を込めずに済む分、長く力を込められぬフラムには持って来いの戦い方と言えるのお」
「これなら行ける!」
五属性の力を掻い潜って懐に潜り込み、合成死魔獣の体にヴァイトの一撃を喰らわせた━━ように見えたが、合成死魔獣は体に氷を張って防いだ。
「しまった!」
フラムが見上げると、八つの頭が大きな口を開けていた。




