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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第十五話 戦線離脱

「生意気な。お前は一体━━いや、あそこに居る珍妙な魔獣、何処かで……」

「誰が珍妙でヤンスか!」


 シャルロアと共に寄って来たパルが憤慨する。


「喋る魔獣! そうか、お前はあの時ライオが庇った女ですか」

「こちらは直ぐに分かったんだけど、覚えていてくれて光栄だわ」

「随分と余裕を見せて、気に障る言い方ですね。あの時、レガラントに苦戦していたのに、ベーベンブルングをああもあっさりと。暫くの間に一体何が?」


 自慢のベーベンブルングが簡単にやられてしまい、思わず疑念を口が吐く。


「私もかなりレベルアップしたって事ね」

「言い方は鼻に突きますが、満更嘘でもなさそうですね。だからあの時、殺しておけと言っておいたのに」

「あら、それは残念」

「残念? ここで殺せば同じこと」


 アローラがすっと前に出ようとするが、フラムに飛ばされた白装束の集団が割って入り、前を塞ぐ。


「お前達、何の真似ですか?」


 白装束の集団は武具を構えてフラムとアインベルクを牽制しながら少しずつ後退る。


「アローラ様、ここはお引きを」

「私が負けるとでも言うのですか?」


 アローラは露骨に苛立ちを見せる。

 ただ、戦意を失っているシャルロアを省いても、ベーベンブルングを寄せ付けなかったフラムと五賢人のアインベルクを相手にするとなるとその言い分も分かる。


「仕方ありませんね」


 怒りと共に剣を鞘に納める。


「逃げる気?」

「こちらも色々と事情があるのですよ。生きていればまた会う事もあるかもしれませんね」

「待ちなさい!」


 フラムが動き出すのを見て白装束の集団が構えるが、フラムはそれより早く白装束の集団の間を擦り抜け、アローラに斬り掛かる。

 寸前の所で白装束の一人が間に割って入り、体を張ってアローラを護る。

 アローラは、ベーベンブルングが這い出て来た亀裂の中に飛び込み、最後に見せた不敵な笑みが亀裂の中に飛び込んで闇の中に消えて行った。

 他の白装束の集団もその後に続いて亀裂の中に飛び込んで行った。

 フラムも後を追おうとするが、


「お待ちなさい!」


 アインベルクが呼び止める。


「あなたが倒すべきはあの女ではないでしょう」


 フラムの目が、ブリュンデル城の前に立つケイハルトに向けられる。


「あそこにケイハルトが……」


 ケイハルト、更にはシュレーゲンの視線もまた、フラムに向けられていた。


「アローラが離脱したか」

「如何なさいましょう?」

「捨て置け。この戦いが終われば、また戻って来よう。そういう女だ。それにしてもあの娘、何者だ? 五賢人に引けを取らぬ力を有しているようだが」

「少しお待ちを。あの娘、何処かで見たような…………ああ、確かアルドを探しにオルタニアを訪れた折に、私を追って来た者です」

「知っている者か?」

「ケイハルト様も会っております」

「何?」

「お忘れですか。ヴァルカンが死した時、一緒にいた娘ですよ」

「あの時に? あの時に居たヴァルカンの弟子か」

(しき)りにケイハルト様の居場所を聞いておりましたが」

「仇討ちに来たか。面白い」

「ただ、あの時はそれほど強者の感じはしませんでしたが。この短期間に何が?」

「短期間に五賢人に近い程に腕を上げたとなると、恐らくはあの老いぼれか」

「老いぼれ?」

「気にするな」

「左様で。それよりも、アローラが離脱したとなると、そろそろ私の出番ですかな」


 シュレーゲンの目の前に漆黒の召喚陣が現れる。


「確か、取って置きと言っていたが?」

「はい、以前にアルドを探している時に、面白いものを見つけまして」

「ほう、まだまだ楽しめそうだな」

「それでは、お先に失礼致します」


 シュレーゲンの姿が召喚陣に吸い込まれるように消えると、召喚陣もまた消え去った。


「戦局は中程と言う所か。準備もある事だ。そろそろ私も動くとするか。それにしてもあの娘」


 ケイハルトの訝しむ視線はフラムに。


「ヴァルカンの弟子か。何か引っかかるのだが……まあいい。それよりも」


 移した視線の先には、一人で戦っているライオの姿があった。


「ようやくか」

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