第十三話 到着
シャルロアの目の前で、オロドーアが自ら盾となり、ベーベンブルングが吐く炎をまともにその身に受けていた。
「止めて下さい! そんな事をしたらオロドーアさんが━━」
止めに入ろうとするシャルロアを、オロドーアは軽く突き飛ばす。
倒れたまま顔を向けたシャルロアに、笑顔を見せて首を横に振ってみせる。
「待って! オロドーアさんまで居なくなったら私は━━」
最後に親指を立てたその姿は、一瞬にして炎の中に消えてしまった。
ベーベンブルングが炎を吐くのを止めると、炎と共にオロドーアの姿は消えていた。
「そんな…………」
ドームから洩れ聞こえて来た悲痛な叫び声に、アローラは満悦の笑みを見せる。
「いい叫び声ですね」
「何と下衆な」
「ほう、怒りましか。あの氷の女王が?」
「いいえ、怒りはしませんよ。ただ単にあの子が弱いだけですから。下衆と申したのは、あなたの物の考え方を歎いているだけです」
「何処までも強気な。だが、魔力からするとあの中にあの娘を守る魔獣はもういないはず。娘を殺されてもそう強がっていられるでしょうかね?」
「娘が殺される? それもありませんね。どうやらあの子が来たようですから」
「あの子?」
「ええ、実に遅い到着ですが」
微笑む顔で少し見上げた上空を、何かが物凄い勢いで通り過ぎて行く。
ドームの中では、立ち上がれずにいるシャルロアに、ベーベンブルングが向きを変え、三つの頭が大きく口を開けていた。
シャルロアは、動く様子を見せず、涙で頬を濡らしていた。
ベーベンブルングの三つの頭の口の奥に、氷、炎、風の吹き出しを見せる。しかし、外から物凄い勢いで飛んで来た何かがベーベンブルングの横っ腹に激突し、ベーベンブルングは吹っ飛ばされてしまった。
「いてて……勢いがつき過ぎて止まれなかったでヤンス」
頭を押さえ、羽を羽ばたかせて宙に静止しているのは、シャルロアがよく知るあの魔獣であった。
「パル……さん?」
「おかげで間に合った━━」
自慢げに振り返ったパルだが、涙に濡れたシャルロアの顔を見て表情を曇らせる。
「でもなさそう、でヤンスね」
突然上空が陰り、シャルロアが怪訝な顔を上げると、上空にフィールが飛んでいた。
そこから何かが飛び降りて来て、シャルロアの前に降り立った。
「久しぶりね、シャルロア」
「フラムさん、オロドーアさんが……」
「オロドーアが? あらあら、泣いちゃってるじゃないの」
フラムの目は、吹っ飛ばされて壁にぶつかって倒れているベーベンブルングに向けられる。
「なるほど、オロドーアがあいつにやられたって訳ね。見た事ない魔獣だけど、随分とおっかなそうなのと戦わされて。それもこんな狭い場所で」
背中にある二本の剣の内の一本を鞘から抜いたフラムの剣が、一瞬にして炎に包まれる。
「フラムさん、待って下さい。周りの壁には人が」
フラムが何をしようとしているのかを察したシャルロアが止める。
「分かってるって。中に居るのはどうせ敵なんでしょう。シャルロアが手出しを出来ない事を見越して。相変わらず優しいわね。そこがシャルロアのいい所ではあるんだけど。まあ見てなさい、あなたが危惧するような事にはならないから。さあ、パル!」
「了解でヤンス!」
パルが炎に包まれているフラムの剣に炎を吐いて吹き付けると、フラムの剣を包む炎がさらに大きく燃え上がる。
「フラムさん、後ろ!」
倒れていたはずのベーベンブルングがいつの間に体を起こし、フラムの背後から襲い掛かって来た。
「織り込み済みよ! シャルロアはそのまま立ち上がらないでね!」
フラムは体を廻転させながら炎の剣を横薙ぎに一閃させた。すると、剣から炎が円形に飛び出し、襲い掛かって来たベーベンブルングに直撃して吹き飛ばし、更に広がった炎のリングは周りを囲む氷の壁に直撃するなりその全てを炎に包み込んだ。
炎は直ぐに消えたが、それと共に氷の壁も跡かたなく消え、白装束の集団が再び姿を現した。
白装束の集団全員にさしてけがはないようで、何が起こったかが分からずに、訝しげに周りを見廻す。
「これで思う存分に暴れられそうね」




