第十二話 盾になりて
魔獣召喚士の意思に反して魔獣が召喚される事は有り得ない。
それが、シャルロアが閉じようとした魔獣召喚陣から魔獣の手が伸び出し、更に見覚えがある大きな体が姿を現した。
「オロドーアさん!?」
現れたオロドーアは、シャルロアに笑顔を見せ、何かを話しかける。
「自分に任せろって、今の相手はオロドーアさんではとても敵いませんよ。早く魔獣召喚陣の中に戻って下さい」
オロドーアは激しく首を振る。
「ワガママ言ってないで、早くして下さい」
そんなやり取りをしている間に、ベーベンブルングを包む氷全体に亀裂が走り、粉々に砕け散って再びベーベンブルングが姿を現した。
止むを得ずシャルロアは印を解いて魔獣召喚陣を消すしかなかった。
「グートバラン、あの魔獣を何とかして下さい!」
濡れた体を振るっているベーベンブルングにグートバランが飛び掛かり、その首に噛みついた。
悲痛な叫びを上げながらも、ベーベンブルングはグートバランに炎を吐きつける。
グートバランは口を離すと共にベーベンブルングの体を蹴って離れて炎を回避した。
互いに距離を取って対峙し、唸り声を上げて睨み合う。
緊迫した空気を二匹が見せる中、オロドーアが割って入ってベーベンブルングに向かって行った。
拳を振るって殴り掛かるが、当たる寸前でベーベンブルングの姿が消えて空振って派手に転倒する。
「だからダメですって」
シャルロアが呆れ顔を見せる中、グートバランとベーベンブルングは激しい戦いを見せる。
そこにシャルロアも加わって、錫杖を巧みに振るって見せる。
オロドーアは邪魔になってはいけないと、足を踏み出せずにいたが、とりあえず何かはしなくてはと右往左往しながら咆哮を上げる。
「グートバラン、今です!」
グートバランが吐き出した冷気が、ベーベンブルングを一気に氷の中に閉じ込めた。それは、シャルロアが凍らせた時よりも遥かに分厚い氷だった。
後は外から大きな衝撃を加えれば、ベーベンブルングは周りを覆う氷共々粉々に砕け散る。
グートバランは体当たりを、シャルロアは振り上げた錫杖を力一杯振り下ろしたが、氷に亀裂が走ると共に吹き出して来た熱風で吹き飛ばされてしまった。
慌ててすっ飛んで来たオロドーアが、シャルロアを受け止めて事なきを得たが、グートバランはドームの壁に叩き付けられた。
ベーベンブルングを覆う氷には再び無数の亀裂が走り、今度はそこから激しい炎が噴き出すと共に一気に全てが炎に包まれ、更にその勢いは収まらず、ドームの天井をぶち抜いた。
ドームから噴き出す火柱に、今度はアインベルクが顔色を変える。
「あれは? それにこの魔力」
「あれこそがベーベンブルングの真の力ですよ。その力が余りに強大なゆえ、取り押さえるのに呪印を施してあったのです。だから呪印を解いてもその力が直ぐに戻る事がなかっただけ。言ったでしょう。後悔すると」
アインベルクがシャルロアがいるドームに向きを変えるのに合わせてアローラはその間に入って剣を構える。
「あなたにはここに居て貰う。それも言ったはずです」
ドームの中で炎が収まって来たその中から姿を再び現したベーベンブルングは、その魔力の大きさだけではなく、その姿まで大きく変わっていた。
体の大きさはひと回り大きくなり、一番の違いは頭が三つに増えている。
「そんな……」
圧倒的な魔力とその姿の風格に、シャルロアは思わず立ち尽くす。
壁に叩き付けられて倒れていたグートバランは、立ち上がるなり恐れることなくベーベンブルングに向かって行く。
「グートバラン、待ちなさい!」
シャルロアが止めるも、それが耳に入っているのかいないのか、グートバランはベーベンブルングに向かって冷気を吐きつける。
ベーベンブルングそれに合わせて真ん中の頭が炎を吐いて応戦する。
冷気と炎はほぼ互角の力であったが、左の頭が冷気を吐き、グートバランは一瞬にして凍りついてしまった。
透かさず右の頭が吐いた突風の衝撃を受け、グートバランは体を包む氷共々一瞬にして粉々に砕け散ってしまった。
「グートバランが……」
まるで歯が立たずにやられてしまったグートバランに、愕然と立ち尽くすしかなかったシャルロアに、間髪入れずにベーベンブルングの真ん中の頭が吐いた炎が襲い掛かる。
動く事も出来ず、思わず目を瞑ってしまったシャルロアは、ベーベンブルングの炎をまともに受けてしまった。
ところが、熱さは感じるもののその身を焼く痛みが来ない事に怪訝な目を開けると、目の前には壁と見紛う見知った大きな背中があった。
「オロドーアさん!?」




