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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第九話 ここである訳

 激しい戦いが行われている中、ブリュンデル城の玉座の間では、未だ頬杖をついて玉座に座るケイハルトの姿があった。

 その傍らには、シュレーゲンの姿もある。


「戦況はどうやら我等の方が思わしくないかと」

「数では向こうが多いからな」

「はい、それもまだ敵方は数が増えて来ているものと」

「まあ、それも全て織り込み済みだが。だからこそ、このアルブトラを戦いの場に選んだのだからな」


 重い腰がゆっくりと上がった。

 ヴァルカンによって斬り落とされた左腕はなく、服の袖がだらりと下がっている。


「行かれますか?」

「ああ、そろそろ面白くなって来る頃だからな。外で実際に見るのも悪くなかろう」


 悪辣に見える笑みを見せるケイハルトは、シュレーゲンが作った漆黒の召喚陣の中にシュレーゲン共々消えて行った。




 戦況はシュレーゲンが洩らしていた通り、ビエント達の方が押しているように見えた。

 更に、あちらこちらから翼魔獣が飛来し、その背中に乗る加勢が加わる。

 ビエント、アインベルク、シャルロアと一対一で戦っていたヴェルク、ライオ、アローラも、他の兵が掛かって来る数も増えてその対応に追われ始めている。

 ケイハルト側の兵士達の士気が下がって来た中、ブリュンデル城の前に漆黒の召喚陣が現れ、その中からケイハルトとシュレーゲンが姿を見せた。

 その姿に戦っている者も徐々に気付き、敵味方問わずにざわつきを見せる。

 これでケイハルト側の士気が少しながらでも上がったかと思われたその時、異変が始まった。


「地震か!?」


 大地全体を激しい揺れが襲う。


「お母様、地震が」

「いえ、これは地震ではありません」

「ケイハルトの奴、これを狙っておったのか」


 アインベルクとビエントが苦渋の目を向けるが、ケイハルトはほくそ笑んでいた。


「さあどうする、お二人さん? このまま行けばアルブトラ大戦の二の舞だ。ただ、今は父上もウォルンタースも居ないぞ」


 一向に揺れが収まらない中、地面に大きく口を開けている裂け目から大柄な魔獣達が次々と姿を見せる。

 更には新たに地面が大きく裂け、そこからも魔獣達が次々と出て来る。

 知られている魔獣も居るものの、その殆どがこの世界で知られていない魔獣達ばかりだ。

 ようやく揺れが収まった時、それを合図にするように、出て来た魔獣達は近くに居る人間達に狙いを定め、襲い始めた。

 抵抗を試みるも、這い出して来た魔獣達との力の差は歴然で、次々と捕食されて行く。


「お母様、これは敵味方関係なく」

「ええ、分かっています。ケイハルトにとっては敵も味方もないのでしょう」

「最初からそのつもりだったのだろう」


 アインベルク達の元へ、ビエントが魔獣を三叉戟で寸断し、また一突きで体に大きな穴を開けつつ寄って来た。


「ビエント、これではアルブトラ大戦より酷い状況に」

「そうだな。ルディア様とウォルンタース様が居ない今、我々が何とかしないと」

「一人でも多く、助けますよ」


 アインベルクが錫杖を地面に突き立てると、そこから幾筋もの氷の道が勢い良く走り、それに触れた人や魔獣を氷の彫刻へと変えて行く。


「お母様、人まで一緒に」

「いいんですよ。一時的にではありますが、凍らせておけば襲われる心配はないでしょうから、止むを得ない処置です。さあ、ビエント」

「任せておけ」


 駆け出したビエントは、凍っている中で湧き出した魔獣だけに三叉戟で突きを入れ、氷ごと粉々に粉砕して行く。


「あとは炎魔獣を召喚出来る者に魔獣を召喚させ、残った人々の氷を解かせばよいのですよ」

「なるほど」

「感心してる場合ではありませんよ。凍らせるだけならあなたにも出来るでしょう」

「分かりました」


 シャルロアも同じ様に錫杖を地面に突き立てると、そこから氷の道が幾筋も走り、それに触れたものを次々と氷の彫刻を生み出して行く。


「年を食っても五賢人か。なかなか」


 感心しながらもブリュンデル城の前で傍観するケイハルトの顔から笑みが消える事はない。

 

「いかがなさいましょう?」


 そう訊ねるシュレーゲンも慌てた様子はない。


「まだ私の出番ではない。お前も何か用意しているのだろう?」

「取って置きを一つ」

「まだまだ面白くなりそうだ」

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