第八話 激しい攻防
ビエントはヴェルクのアックスの一撃を飛び退って躱す。
「ほう、あの時とは違うか」
「当然だ。あの時はあの場から離れないといけなかったもんでな。腕試し程度のもんよ」
「なるほど。それにそのアックス、形が違うので分からなかったが、十傑のツェントだな。盗まれたと聞いたが、そうかお前が」
「どう言う経緯であろうが、今は俺のもんだ。さあ、あんたの武具はなくなったぞ。どうする?」
「そちらが十傑ならば、こちらもそれ相応の武具で相手をせねばな」
ビエントが懐から出した短い棒状のものに、ヴェルクには見覚えがあった。
「そいつはラファールの? じゃあ、ラファールの親玉はあんたって事か」
「これは元々私の物だ」
ビエントが手にした物を一振りすると、それは一気に長く伸び、その先が三つ又に割れ、それぞれの先端に刃が生まれて三叉戟に変化した。
ただ、その形状は━━。
「ラファールの物と違う?」
「何を驚いておる。そんな事も知らずに十傑を所持しておるのか。例外はあるが、十傑は所持する者によって形状を変えるのだ」
「それがどうした。槍は槍だろうが!」
ヴェルクが足を踏み出そうとしたが、ビエントが三叉戟を構えた途端、金縛りにあったように動きを止めてしまった。
「何だ、この威圧感は……」
先程真っ二つに切り裂いた槍を構えていた時には全く感じなかった威圧感は、ヴェルクよりも小さいはずのビエントの体を大きく感じさせる。
「どうした、さっきまでの威勢は?」
「うっせえ!!」
ゆっくりと歩くアインベルクが錫杖を地面に突き、艶やかな音を打ち鳴らす度、地面に突いた錫杖の辺りから氷の道が幾筋も走り、それに触れた敵の魔獣、魔獣召喚士、更に兵士は次々と氷の彫刻と化す。
徐々に周りの敵が道を開ける様にアインベルクの傍を離れて行く中、一匹のサウロンが飛来し、その背から一つの影が飛び出して、アインベルクに向かって来た。
振るわれた剣をアインベルクの錫杖が受け止め、激しい金属音を打ち鳴らす。
剣を握るのはアローラだ。
笑みを見せるアローラの目の前で、アインベルクが一瞬にして凍りついた。しかし、直ぐに氷全体に亀裂が走り、粉々に砕け散った。
アインベルクには何の異常もなく、冷たさを感じさせるその眼差しを見たアローラは、慌ててその場から離れる。
「私に冷気は利きませんよ」
「さすがは五賢人って所かしらね。でも、雷撃ならどうかしら」
「雷撃?」
背後から感じた気配に、アインベルクが振り返ると、そこに斬りかかって来たライオの姿があった。
不意打ちながらもアインベルクは難なくライオの剣を錫杖で受け止めるが、ライオの剣は直ぐにスパークを始める。
「甘いですね」
ライオの剣を伝い、アインベルクの錫杖に電撃が流れ込むが、アインベルクが素早く錫杖の先を地面に突き立てると、電撃はアインベルクの体ではなく錫杖から地面の方に流れて行く。
逆に錫杖の方から入り込んだ冷気でライオの剣が徐々に凍って行く。
ライオも直ぐに飛び退って離れ、剣を振り払って凍った部分の氷を飛ばす。
更に間髪入れずにアローラが背後から斬り掛かるが、今度はアインベルクは動かない。
「もらった!」
アインベルクの背後を捉えたかに見えたアローラの剣は、新たに現れた錫杖によって受け止められた。
「そちらはあなたに任せますよ」
「はい、お母様」
シャルロアは錫杖でアローラの剣を押し返して振り払い、アローラ自身を下がらせる。
「あらあら、親離れ出来ないお嬢様のご登場ですか?」
「甘く見てるとその大口が叩けなくなりますわよ」
「言う割には背中がガラ空きのようだけど」
アローラを乗せていたサウロンがシャルロアの後ろから飛び迫り、冷気を吐いて来た。しかし、シャルロアは背を向けたまま錫杖を後ろに廻し、そこで激しく廻転させてサウロンが吐いた冷気を振り払う。
更に体を反転させると共に飛び上がり、向かって来たサウロンの背中に錫杖で一撃を加えた。
サウロンは地上に落ち、羽をばたつかせる。
「あなたには悪気はないんです。これ以上は大人しくしておいて下さいね」
シャルロアはサウロンに笑みを見せてから振り返り、表情を再び引き締めてからアローラに向けて錫杖を構えた。
「さあ、始めましょうか」
「生意気な小娘が」




