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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第七話 激突

「戦場の場をアルブトラに選ぶとは、全くもって不愉快ですね」

「ケイハルトのことだ。ただ単にここを戦場に選んだだけではあるまい。何を仕掛けておるやら」

「確かに、それは言えますね。だからと言って、先手を譲る訳でもありませんわね?」

「当然だ」


 ビエントが台車に目を遣るのを見て、アインベルクもそれに続いた。


「なるほど、ブリュンデル城を落としたのはそれですか。相変わらず雑な男ですね」

「ちゃんと城は落ちたであろう。それに、苦労して持って来てくれたのだ。最後まで使ってやらんとな」


 ビエントは台車の荷台に残る二本の内の一本の大木を、再び軽々と持ち上げた。

 一度それを見ている兵士達とアインベルク以外のシャルロアを含む他の者達は、驚歎の声を洩らす。

 更にその狙いをブリュンデル城の方に定め、振り被って放り投げるのを見て、更なる驚歎の声を生んだ。

 投擲された大木は物凄い速さでブリュンデル城の前まで到達し、密集している兵士や魔獣の群れの中に落下した。

 いち早く気付いた者達は逃げようとしたが、爆音と共にその周りに居た多くが吹っ飛ばされた。


「さて、最後の一本」


 歓喜の声が上がる中、最後の一本を持ち上げ、間髪入れずに放り投げた。

 二撃目の投擲も、図られたようにブリュンデル城の前で密集する兵と魔獣に向けて飛んで行く。

 一撃目の事もあり、慌てて逃げ出そうとするも、密集していて身動きが取れない。

 騒然とするその密集する中から、大柄な人影が飛び出した。


「そう何度もさせるかよ!」


 向かってくる大木に向かって飛び出した人影は、ヴェルクであった。

 廻転するように振るったアックスが見事に飛んで来た大木に命中し、跳ね返った大木はほぼ飛んで来た速さを保ち、ビエント達に向きを変えた。

 思いもしない反撃に、飛んで来た先に居る精鋭達も焦燥を見せる。


「これぐらいで動揺しては困りますよ」


 アインベルクが錫杖の先を地面に突き刺すとその先から伸びた氷の筋が宙を走り、飛んで来た大木に触れた刹那に全てを氷に包んでその動きを止めてしまった。

 更に引き抜いた錫杖の先で伸びている氷を軽くつつくと、氷は大木ごと粉々に砕け散ってしまった。


「二本目は返されてしまいましたわね。これでは先手を取ったとも言えませんよ」

「何を言う。一本目で向こうは被害を出しているのだぞ。十分先手は取れたであろう」

「負けず嫌いなのは変わりませんね」

「それはお互い様であろう」


 少し前にいがみ合うのは子供だと言っておきながら、二人共十分に子供だと周りは思いつつも、それを口にする者はいない。


「お母様も、ビエント様もいい加減になさって下さい。相手はもう、動き出しそうですよ」


 この場を諫めるただ一人、シャルロアの方が大人だと周りは呆れるばかりだ。

 そんな中、ブリュンデル城の方のあちらこちらから魔獣の角を加工した角笛の音が響き渡り始め、ケイハルト側の軍勢が前進を始める。


「いがみ合っておる場合ではないな」

「分かっています」

「こちらも角笛を」


 近くに居る兵が腰に携えている角笛を手にし、高らかに吹き鳴らす。

 それを合図に周りに角笛を持っている者達が次々と吹き鳴らし、こちらの軍勢も我先にと駆け出した。

 魔獣召喚士達はその場で魔獣を召喚し、あるいは乗って来た翼魔獣に乗ってその後を追う。

 二つの軍勢が一直線に並んだままで荒野を走り、互いの距離を縮めて行く。

 その二つが重なった時、遂に本格的な戦いの火蓋が切って落とされた。

 周りを囲まれるのを避ける為に互いに、一直線になったまま戦いが繰り広げられる。

 そんな中でも五賢人の二人、対するはライオとアローラとヴェルク五人は圧倒的な力を見せていた。


「ビエントだ……」

 

 ビエントの槍の一振りで、周りにいる五人程が軽々と吹っ飛ばされる。


「おいおい、おっさん一人に何を遊んでやがる」


 こちらもアックスを振るって周りの敵を蹴散らしながらヴェルクが姿を見せた。


「さっきはずいぶんと派手な挨拶だったよな」

「そちらもな」

「さて、この間の決着を付けさせて貰おうか」

「手も足も出なかった者が、何を言うか」

「試してみるか?」


 ヴェルクが大きく振りかぶったアックスが、ビエントの頭頂を襲う。

 ビエントも慌てることなく構えた槍を振り上げる。

 初めて(まみ)えた時のように、力強く振り下ろされたアックスの刃を、ビエントの槍先の一点で受け止めた。

 ただ今度は、ヴェルクが笑みを見せた刹那、ビエントの槍は真っ二つに裂けてしまった。


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