第六話 集結
分厚い雲の中からブリュンデル城が姿を現し、そのまま勢いを増したまま荒野の上に落ちると、激しい地響きがかなり離れた所に居るビエント達の元まで伝わって来る。
ブリュンデル城は、更に地面を削りながらかなりの距離を移動してようやく止まった。
「さて」
ビエントは台車の上から飛び降りる。
「ビエント様、城から何かが!」
地上に落ちたブリュンデル城から、大勢の兵士達が、更には様々な魔獣が飛び出して来る。
途切れる事なく次々と、一瞬にしてその数は百は超え、更にその数を増やして行く。
「これはこれは、随分と手厚い歓迎だな」
「そんな呑気な。まさか我々だけであの連中を相手にするおつもりですか?」
指摘する兵士だけではなく、他の兵士全員が不安気な顔をビエントに向けている。
「馬鹿を言え。さすがに私もそんなに無謀ではないぞ。おお、ようやく来たか」
見上げたビエント達の上空を、物凄い速さで大きな黒い影が次々と通り過ぎて行く。
旋廻してビエント達の周りに降りて来た黒い影は、サウロンの群れであった。
その背中には、一人ないし二人の人間が乗っていて次々と飛び降りて来る。その中に見知った顔が二人、ビエントに歩み寄って来る。
「少し遅いのではないか?」
「何を申すのです。あなたの連絡が遅いからでしょう」
文句を言い返すのはアインベルクだ。
その少し後ろを付いて来るのはシャルロアだ。
二人とも長い髪を後ろで一つに束ね、更にはいつもの豪奢な王族衣装とは違い、軽装の甲冑の様な戦い易い格好をしている。
軽装と言ってもそれなりに煌びやかであるが、いつもの荘厳な感じとは違い、凛とした勇ましさを感じさせる。
「ほう、シャルロアも来たのか。そういう格好をしておると、少しは大人っぽく見えるな」
「からかうのは辞めて下さい」
シャルロアは少し顔を赤らめて俯く。
「あなたはいつからそんな下世話な物言いをするようになったのです?」
「下世話だと? 私は褒めているのだぞ」
「相手が嫌がっていてはそれは十分下世話と言えます」
「何処が嫌がっていると言うのだ?」
「十分嫌がっているでしょう」
一触即発の雰囲気に周りが慌て出す。
「お母様、お止めに」
「ビエント様も、今は争っている場合では」
「分かっておる。心配するな」
「ええ、私達もそんな子供ではありませんよ」
どう見てもそうは見えなかっただけに、止めに入ったシャルロアと兵士達は冷ややかな目を向ける。
「それより、あの者はどうしました?」
「あの者?」
「戻って来たのでしょう。無事でありましたか?」
「ああ、戻っては来た。だが、これから先の光を失ってしまった」
「光?」
「これから先、目が……恐らく当人も薄々は気付いておるやもしれぬ」
「そうですか。それは何と申してよいやら。ただ、彼は今回の功労者一人に変わりありません。戦いが終われば労ってあげないといけませんね」
「ああ、その為にはこの戦い、必ずや勝たねばならん」
「そうですね」
口にしたアインベルクだけでなく、シャルロア、そして周りにいる兵士達も表情を引き締める。
「他の者達も集まって来たようだな」
「ええ」
再び上空を黒い影が幾つも通り過ぎて行く。
ただ、今度の数は夥しく、様々な翼魔獣達が舞い降り、その背に乗る戦士達が飛び降りて来る。
皆、ビエントやアインベルクの呼びかけに応じて各国から集まって来た剣士や魔獣召喚士の精鋭達だ。
ブリュンデル城の前にも、かなりの数の人や魔獣の姿が見える。その中には、アローラやヴェルク、そしてライオの姿もあった。
「そう言えば、フラムさんの姿が見えませんけど……」
続々と人が集まる中、シャルロアが辺りを見廻すが、それらしき姿はない。
「何せ修行を付けているのがウォルンタース様となると……」
「ええ、中途半端だと行かせては貰えないでしょうね。ただ、相手がケイハルトである以上、必ずやって来るでしょう」
「それは言えるな。だが、我々で片付けばそれでよし」
「そうです。あなたも厳しい修行をして来たのですから、フラムが来たら終わりましたよと言えるほど頑張らないと」
「はい、お母様」
以前のシャルロアなら弱気な発言をしていただろうが、その眼差しは明らかに変わっていた。
互いの準備が着々と進み、今にも激しい戦いが始まろうとしていた。




