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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第五話 開戦の狼煙

「ビエント様、本当にここで宜しいのでしょうか?」


 二十人程の兵士と思われる男達は皆一様に不安げな顔で辺りを見廻していた。

 辺りには建物や草木、そういったものは全くなく、ただ荒野と岩場が広がり、地面のあちらこちらに大小様々な亀裂が走り、底深い暗闇が覗いている。

 一見フラムとフリードが見たビークザームの様にも見えるが、そこはまるで違う程に規模が広大だ。


「ここはかのアルブトラですよね」

「その昔、大きな戦いがあったと言う」

「こんな所に来るんですか?」

「来る。確かな情報を得ておるからな」


 遠くを見据えるビエントの隣にはかなり大きな台車があり、その荷台の上には何年もの月日を経て来たと思われる大木が五本乗せられている。





「アルブトラだと?」

「はい、ケイハルトは用がない時には大概はアルブトラの上空にブリュンデル城を移動させていました」

「なるほど、あそこならなかなか人の目が向かぬからな」

「今回も方向からするとそちらに向かっているものかと。ただ、私が裏切り者だと分かった以上、行く先を変えるかもしれませんが」


 ビエントはベッドの上で体を起こしているラファールの肩に手を置く。


「いや、だとすれば必ずケイハルトはアルブトラに向かうだろう」

「どうしてそう思われます?」

「元々プライドが高き男だ。逃げるような事はすまい。それに、決着をつけたいのは同じであろう。ならば、決戦の地をアルブトラに選んでも不思議ではないからな」

「なるほど、さすがは五賢人の名参謀と呼ばれるだけはありますね。ただ、だとすれば余計に、何をして来るか分かりません。お気を付けを」

「吉報を待っておれ」


 ビエントは表情を引き締め、部屋から出て行った。





「…………ケイハルトは必ずやって来る」

「それにしてもこの大木は何に使うんです? この人数で運ぶのも大変でしたよ」

「ケイハルトが来れば分かる」


 やがて、今まで雲一つなく晴れ渡っていた空に雲が垂れ込め、それが徐々に広がって行き、一気に辺り一面の空を埋め尽くしてしまった。


「やはり来たか」


 更に、あらぬ方向から一際低く垂れ込めた分厚い雲が現れ、埋め尽くした雲の中をゆっくりと移動して行く。

 ビエントは荷台に積まれている大木の上に飛び乗り、一番上に置かれている大木に手を掛けた。

 自分の体を超える大きさで、何百キロ━━いや、一トンは越えよう大木を軽々と持ち上げたビエントに、周りにいる兵士達は目を丸くして息を呑み、ざわつきを見せる。

 ただ、更なる驚きはその後だった。

 ビエントは大木をその重さを感じさせない動きで投擲するかのように構え、その先端をゆっくりと移動する雲に狙いを定めると、振り被って一気に投げ出した。

 物凄い速さで上空に投げ出された大木は一瞬にして低く垂れ込めた雲の中に消え、ビエントが予測した通りその中を浮遊するブリュンデル城の下部で廻っているプロペラに直撃し、大きな音を響かせた。


「何事だ!?」


 玉座の間にある玉座の隣に立つシュレーゲンが、城全体を揺るがす激しい衝撃に動揺を見せる。


狼狽(うろた)えるな」


 玉座に座るケイハルトは、シュレーゲンとは対照的にほくそ笑んでいる。


「言ってあったはずであろう」

「では、ラファールが? ですがこの衝撃は一体……」

「こんな事が出来るのは、恐らくビエントであろう」

「五賢人の━━」


 更に間を置いて二回目の衝撃がブリュンデル城を襲う。


「このままでは城が落ちます」

「構わん」

「ですが、このまま落ちれば城そのものにかなりの損害が出ると思われます。そうなると修復にもかなりの時間が」

「修復? 城などまた奪えばいいだけのこと。況してや残る五賢人を消してしまえば城など」

「では、やはりここで決着を?」

「無論だ。その為にこの場所を選んだのだからな。さあ、皆の者に準備をさせろ」

「ライオ様はいかがなさいますか?」


 ライオはラファールの逃亡を手助けしたとして城にある牢に幽閉されていた。


「出してやれ。()()()()()()()()()

「承知致しました」


 目の前に漆黒の召喚陣が現れ、シュレーゲンはその中に姿を消して行った。




 ビエントは三本目の大木を投擲した。

 大木が一瞬にして雲の中に消え、三度目の衝撃音が響き渡った直後、雲の中からブリュンデル城の下部が姿を見せ、徐々に降下して行く。

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