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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第四話 師弟

「さあ、ラファール様お逃げを」

「しかし……」

「我々の気持ちを無駄にしないで下さい!」


 ラファールに加担する兵の数は少なく、明らかに劣勢で玉砕覚悟は明白だった。

 それだけに時間を無駄にする訳にも行かず、ラファールは指笛を吹き、予め召喚しておいたグリードを呼び寄せてその背中に飛び乗った。


「済まない」


 一言侘びだけを残し、その場を離れる。


「行かしませんよ!」


 乱戦の中、アローラが乗るサウロンだけがラファールのグリードを追う。

 分厚い雲の中に飛び込み、直ぐに城が見えなくなる中、アローラが追い付いて来た。

 ラファールも覚悟を決め、グリードを反転させて、その背中で三叉戟を構える。

 グリードとサウロンが擦れ違い様に激しい金属音が打ち鳴らされる。

 サウロンはそのまま分厚い雲の中へと消えて行く。


「何処から来る……前か!」


 ラファールが構える前方の雲の中からサウロンが飛び出して来たが、その背中にアローラの姿はなかった。


「しまった!?」


 慌てて見上げた雲の中からアローラが落ちて来た。

 何とか身を引いて躱そうとするも、アローラの振るった剣がラファールの顔を一閃し、その両眼を傷つける。

 アローラはそのままグリードの背に着地するが、視界を失ったラファールは逆にグリードの背から足を踏み外し、落ちて行ってしまった。

 グリードが慌てて主人の後を追おうとするも、アローラがその背に剣を深々と突き刺し、絶命して落ちて行く。

 アローラはグリードの背を蹴り、飛び寄って来たサウロンの背に飛び移った。


「この高さから落ちたら如何にラファールでも助かるまい。あなたに恨みはあろませんが、残念ですね」


 その顔に無念さを滲ませ、城の方へと飛び去って行った。





 ラファールは激しく身を起こした。

 目元には包帯が巻かれていて何も見えないが、ベッドの上に寝かされているのは分かった。


「ようやく目が覚めたか」


 聞き覚えのある懐かしきその声に、ラファールは安堵すると共に嬉しさを覚える。


「先生…………」


 海が見える窓辺に、遠くを見詰めるビエントの姿があった。


「どうして私はここに?」

「落ち合うはずの場所になかなか現れないから全員で捜索したのだ。そうしたらブリュンデル城を覆う雲らしきものを見つけたので待っていたら、お前が落ちて来たのでな」

「そうですか……」

「目には傷を負っていたが、無事で何よりだ」


 目に光るものを拭ったビエントは、ベッドで身を起こしているラファールの元に歩み寄る。


「顔と名前まで変え、今までケイハルトの元に潜伏させてかなり苦労を掛けたな」

「お止め下さい。この任務は私が志願したもの。気に病まないで下さい」

「そうはいかん。お前も私の大事な教え子だからな」

「相変わらず先生はお優しいですね。それにしても、どうやらケイハルトは早い内から私が裏切り者だと気付いていたようですが」

「やはりそうか。こちらの行動が見透かされているようで、もしやと思っていたが。だからこそ、早くお前を呼び戻そうとしたのだが、少し遅かったか」

「いいえ、こうして先生と再会出来たのですから。それにしても、フラムは私だと全く気付かなかったのに、どうしてバレたのでしょうかね」

「ほう、フラムに()うたのか?」

「ええ、とある所で偶然。とても元気そうでした」


 ラファールの口元が綻ぶのを見て、ビエントの目頭が再び熱くなる。


「お前も元気にならなくてはな。後は私たちに任せ、ゆっくりと休むがいい」

「そうは行きません。目さえ治れば直ぐにでも━━」

「ならん!」


 ビエントの強い口調にラファールは驚く。


「済まん、つい。だが、恐らく次の戦いは最後となろう。それだけに激しくなるはず。万全でないお前に戦わせる訳には行かぬ。分かってくれ」

「…………分かりました。先生にそう言われては、仕方ありませんね」

「その代わり、必ずやケイハルトを何とかして見せよう。約束だ」

「それは頼もしい。では、私も取って置きの情報を」

「取って置き?」

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