第三話 突破口
ラファールは通路を駆けていた。
前方から兵士らしき者達が駆け寄って来て手持ちの武器で襲い掛かって来るが、ケイハルトが危惧していた通り、あっさりと返り討ちにし、シュレーゲンが言っていた足止めにすらならない。
「このまま外まで出られれば良いのですが……」
そう甘く行くはずもなく、行く先の壁が突然激しく崩れるのを見てラファールの足が止まる。
「全く、余計な仕事を増やしてくれるな。お前も」
「ヴェルク……」
崩れた壁の奥の部屋からヴェルクが姿を見せた。
「あなたも見逃してはくれない口ですか?」
「俺は少しでも強くなりたいからここに居るんだが、ここでお前を見逃せば、出て行かなくちゃならねえ。俺はまだ強くなりてえからな。まして、お前と本気でやり合って勝てたなら、実力も上がるし株も上がるってもんだろう」
「つまり、ダメだと言う事ですね」
ラファールは覚悟を決め、三叉戟を構える。
ヴェルクは肩に担ぐアックスを振り上げるなり、その体躯を感じさせない速さで駆け出し、一気にラファールに駆け寄ると、アックスをラファールに向かって振り下ろした。
迫力あるアックスの一撃を、ラファールは躱すことなく三叉戟の中央の刃の先端の一点で受け止めた。
「なっ!?」
一度はヴェルクが一驚するも、それは直ぐに不敵な笑みへと変わる。
「そういやあ、以前にも俺の一撃を槍の先で受け止めやがった奴が居たな。お前が何者か、分かった気がするぜ!」
ヴェルクが横薙ぎに振るったアックスを、ラファールは飛び退って躱すが、直後にアックスが巻き起こした風圧がラファールを襲う。
ラファールも三叉戟を廻転させてその風圧を散らすが、その間に間を詰めたヴェルクの一撃がラファールの頭頂に迫る。
「もらった!」
捉えたかと思われたヴェルクの更なる一撃も、高々と響き渡る金属音と共に再び受け止められた。しかしそれは、ラファールの三叉戟ではなかった。
「忠告したはずだ。気を付けた方がいいと」
「ライオ?」
アックスを剣で受け止めているのはライオだった。
ライオの剣がスパークし始めるのに気付いたヴェルクは、慌てて飛び退る。
その顔は嫌悪に変わり、ライオに鋭い目を向ける。
「手前、どう言うつもりだ? そいつは裏切り者だぞ。まさか、手前も仲間だってのか?」
「仲間? 違うな。単なる気紛れだ」
「気紛れだ? ふざけるな!」
「そうです。私に構うと、あなたにも迷惑が掛かりますよ」
「迷惑と思うなら、俺の気が変わらない内に早く行け」
ラファールは戸惑いを見せるが、集まって来る声を聴き、これ以上ここに居れば逆にライオに迷惑が掛かると思い、その場を離れた。
「ちょっと待て!」
後を追おうとするヴェルクの前に、ライオが立ち塞がる。
「何処までも邪魔を」
苦渋の顔を見せるも、それは直ぐに笑みへと変わる。
「考え方を変えりゃあ、堂々と手前とやれるんだ。こんな好機もねえか。覚悟しな」
「やってみろ」
逃走を続けるラファールは、他の兵士達が立ち塞がって来たが、それを軽々と退け、何とか城の外に出ることに成功する。
「ここまで来れば」
「逃がしはしませんよ」
城の陰から複数の翼魔獣が次々と姿を見せる。
先頭のサウロンの背に乗るアローラを始め、翼魔獣の背には一人ないし二人の兵士が乗っている。
更には城の出入り口から数人の兵士が駆け出して来てラファールを囲む。
「簡単には行きませんか」
ラファールが再び三叉戟を構えたその時、
「お逃げ下さい、ラファール様!」
新たに翼魔獣が複数現れ、先に現れたアローラ達の翼魔獣と対峙する。
更に城の出入り口からも新たに兵士が出て来てラファールを囲む兵士に向かって剣を構える。
「ラファール様、ここは我々に任せてお逃げを」
「お前達は?」
「少なからずラファール様に恩義を感じている者です。さあ、早く」
「それではお前達が」
「この命、ラファール様のお役に立てるなら本望」
「アローラ様、いかがなさいます?」
アローラ側についている兵士達が動揺を見せる。
「構うな。ラファールにつくのならそ奴らも裏切り者と見做してよい。一緒に斬り捨てろ!」
その言葉が号令となり、兵士達が入り乱れての戦いが始まってしまった。




