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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第八章 開戦

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 第二話 逃走

「甘いですね」


 ラファールはアローラに目も呉れず、凍り付いている魔導具に向かって三叉戟を突き出した。


「しまった!」


 一度は防がれた三叉戟の一撃も、その一撃によって周りを覆う氷に少なからず傷が付いている事で、次の一撃で脆さを生む。

 アローラも慌てて床に剣を突き刺すも、そこから床を走る冷気の道はとても間に合わない。

 ラファールの三叉戟が凍っている魔導具に突き刺さった━━かに見えたが、そこに魔導具はなく、三叉戟の切っ鋒は床に突き刺さっていた。


「これを壊されては困りますよ」


 突如として空中に現れた黒く輝く召喚陣から人の右腕が突き出ている。凍り付いた魔導具は、その手に握られていた。


「シュレーゲンか」


 ラファールが苦々しい顔を見せる中、腕を追うように黒い召喚陣からシュレーゲンが姿を現した。


「どうしてここに?」

「お前の行動が少しおかしいのはケイハルト様も先刻承知。アローラをこちらに向かわせたが、今回はそれでも足りぬと私も来たと言う訳です。アルドを殺されたのは残念でしたが、魔導具が完成したのなら問題はない」

「知っていたのならなぜ?」

「対処しなかったのか、か? 何が目的か、何をしようとここに来たのか、泳がせておけとケイハルト様が仰せで、それまではその力を利用すればよいとのことでね。ただ、目的が分かった今、用はなくなったでしょうが」

「殺してもよいと? なるほど。でも、そうすんなりと殺される訳にはいきませんけどね」

「ほう、私とアローラを相手にして、その出入り口から生きて出られると?」

「何もそこから出る必要はありませんよ」


 ラファールが三叉戟で足元の床を一撃すると、足元一体の床に無数の亀裂が走ったのも束の間、床が大きく崩れて瓦礫と共にラファールは下へと落ちて行った。


「なるほど、その手がありましたか」


 床に空いた穴に歩み寄って下を覗き込んだ時には、下の階にラファエルの姿はなかった。


「いかがなさいます?」


 アローラも歩み寄って来る。


「私は魔導具を持ってケイハルト様の元に行きます。あなたは厳戒態勢を敷いて、必ずラファールを仕留めて下さい。逃がさないようにお願いしますよ」

「分かりました」


 アローラの知らせによって直ぐにブリュンデル城全体に緊急配備が敷かれた。





 ブリュンデル城の中央にある玉座の間にある玉座にいつもの如く鎮座するケイハルトが不敵な笑みを見せていた。

 その隣の宙に漆黒の召喚陣が現れ、その中からシュレーゲンが姿を現した。


「やはり動き出したか」

「はい、アルドは殺されてしまいました。ですが、魔導具はこれに」


 シュレーゲンが差し出したアルドの魔導具は、アローラによって凍らせられた氷は解けている。


「完成しておるのか?」


 ケイハルトは、受け取った魔導具を眺める。


「既にアルドは殺されていたので、何とも」

「見たところ問題はなさそうだが、仕方あるまい。使い方は既に聞き出してあるのだ。後は完成している事を祈るばかりか。それで、ラファールは?」

「只今逃亡中です。目下、アローラの指揮の元、探させております」

「まあ、アローラ以外が見つけても、止めようがなかろうが」

「はあ、確かに。ですが、足止めぐらいは出来るかと」

「ならいいがな」

「それにしても、ケイハルト様はいつからラファールが裏切り者だとご存じで?」

「ここに来た時からだ」

「はあ?」


 シュレーゲンは耳を疑った。


「癖を隠してもその太刀筋は完全に隠せぬものだ。あの槍捌きはビエントに教わったものであろう」

「では、何故?」

「敢えて手元に置いたのか、か? 言っていた通り、ラファールの力はこちらの力にもなるからな。それに、向こうが情報を得ていると思っていただろうが、それを利用しない手はなかろう。オルタニアの時も、ルティアン議会場の時も、結果は少し違ったが、こちらの思うように事が進んでくれたからな」

「なるほど、情報をラファールから流させる事で、それを逆手に利用したと。さすがはケイハルト様。まさか自分達が利用されているとは思いもしなかったでしょうから」

「さて、これから騒がしくなりそうだな」


 ケイハルトの不敵な笑みは更なる画策を隠しているのか。

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