第十八話 剣頼み
山が崩れる前に飛び立っていた翼魔獣が、山が崩れた事で見通しが良くなり、瓦礫の下敷きにならずに難を逃れた人々を襲い始めた。
反撃を試みるも、翼魔獣の数が多く、囲まれて敢え無くその餌となって行く。
遣り合っていたシュタイルとヴェルクも、上空から襲い来る翼魔獣の群れの対応に追われ始めた。
「ええい、鬱陶しい。剣が手に入らねえなら、こんな所に居ても仕方ねえな」
苦にはしていないものの、何処に隠れていたのか、その数の多さに苛立ちを見せるヴェルクは、ツェントを大きく振りかぶって地面に突き刺して大きな亀裂を作ると、その中に飛び込んだ。
「また逃げる気か!」
シュタイルが後を追おうとするが、その行く手を翼魔獣達が阻む。
フリードにも翼魔獣達が襲い掛かるが、当のフリードは考えに耽って無防備だ。
フィールが炎を吐き、サウロンが冷気を吹き付ける。
「何やってんのよ!」
寸前でパルが吐いた炎がサウロンの冷気を打ち消し、フラムが氷を纏わせた剣でフィールの炎を振り払った。
「馬鹿な頭で幾ら考えても無駄か。いっそのこと、頼んでみるか」
「はあ?」
「本当のバカでヤンス」
フリードは再びゼクスの柄を掴む。
「頼む、俺に力を貸してくれ」
先程とは違い、さほど力を入れずにゼクスを引き上げた。すると、あのヴェルクが力一杯引き抜こうとしてもびくともしなかったゼクスが、一気に引き抜かれた。
「嘘っ!?」
「何ででヤンス?」
声を上げたフラムと飛んでいるパルだけではなく、翼魔獣の対応に追われるシュタイルも、驚きを禁じ得ない様子だった。
ただ、引き抜かれた剣は、紛れもなくルディアが所有していた大剣ゼクスだ。
十年余りを地中の中に埋もれていたとは思えないその悠々しき姿を再びこの世に現した。
身の丈はフリード自身よりもありそうな幅広の刃を持つその大剣を、フリードは苦も無く掲げている。
「後ろ!」
フラムの声に反応し、後ろから猛然と迫って来たグリードに、フリードは振り返りつつ大剣を自らの剣と変わらずに一閃した。
突風が巻き起こると共にグリードは剣に触れることなく真っ二つになって地に落ちてしまった。
「重くないの?」
「それが、自分の剣と変わらない程の重さしか感じないんだ。それもたったひと振りで、空気を斬ってる感覚だ。こいつがゼクス……」
当のフリードも戸惑いを見せるしかなかった。
何かを感じたのか、周りにいる翼魔獣達がその敵意をフリードに向け始め、次々と集まって来る。
フリードは慌てることなく、ゼクスを右に左に、更には前に後ろにと上空に向かって軽々と一振りして行く。
ゼクスは突風を巻き起こし、その刃に触れることなく近寄って来た翼魔獣達を次々と真っ二つにして地面に落として行く。
数えきれない程に上空に飛んでいた様々な翼魔獣が真っ二つの肉片と化して地上を埋め尽くすのに、そう時間は掛からなかった。
「凄いでヤンス……」
「ええ……」
周りを見廻しながらフラムとその肩に乗るパルがフリードに歩み寄って行くと、フリードが構えるゼクスの切っ鋒が勢い良く下がり、地面に重い音と地響きを立てて下がった。
危うくフラムに直撃する所だった。
「殺す気!?」
「悪い。さっきまでは軽々と持てたんだけど、急に途轍もなく重くなってさ」
「それは、ゼクスが完全にお前を所有者と認めていないからだろう」
シュタイルがゆっくりと歩み寄って来た。
「まだやる気?」
フラムが剣を構えるが、
「いや」
シュタイルは剣を鞘に納めた。
「一度地面から抜けた以上、ゼクスは所有者の権利があると認めたと言う事だ。だったら俺が咎める権利はない。ただ、完全に所有者として認められるかどうかは、今後のお前次第だろうけどな。ヴァイトを持つお前の方もな」
指摘されてムッとするフラムの肩で、パルはクスクスと笑う。
「何笑ってんのよ」
その姿にシュタイルは呆れ顔をしつつ、背を向けて歩み出す。
「本当にいいの?」
「さっきも言ったが、俺の武具はツェントだけだ。あれは父親が俺の為に遺した最後の十傑だ。必ず取り戻す」
それだけ言い残して去って行った。
「格好つけちゃって。ど~も、いけ好かない奴ね」
「でヤンスね」
「そうか? 俺はいい奴に見えたけどな」
「何処がよ。まあ、いいわ。とりあえず剣は手に入れたんだし、戻りましょう」
「ああ」
と、言ったものの、今のゼクスは尋常じゃない程に重かった。
「これどうやって持って帰るんだよ!」




