第十三話 魔獣の要塞
決まったその足でウォルンタースの元を離れたフラムとフリードは、森の間を走る道を並んで歩いていた。
「それで、そのゼクスは何処にあんの?」
あんたのせいよと言わんばかりの口調でフラムが訊く。
「アングリフ山の山頂だ」
「山の上? むき出しで?」
「ああ」
「今まで誰も持って行ったりしなかったの? それともジオーネみたいな守護者でも居るの?」
「いや、守護者らしい守護者は居ないんだが、色々と訳ありでな」
「まあ、私にも修行になるだとか言っていたから訳ありなんだろうけど、その口ぶりだと行った事があるみたいだけど」
「まあな」
「だったら何で取って来なかったのよ」
「色々あるって言ってるだろう。行けば分かるって」
疑心の目で見るフラムとその肩で首を傾げるパルを伴うフリードの歩みは少し重そうだった。
「さあ、着いたぞ」
「へえ~、これが。案外近い所にあったのね」
フラム達の目の前には、そそり立つ壁が立ちはだかる。
「そんなに大きな山ではなさそうだけど。道は?」
「まともに歩いて登れる道はない」
「だとしたら、この壁を上るか、魔獣を使って上まで行くかって事ね。そう大きくない山だから、上る自体は問題なさそうだけど……」
フラムとパルは横目でフリードを見る。
フリードは難しい顔をしている。
「高所恐怖症のあんたにとっては途轍もなく大きな山って事ね」
「でヤンスね」
「だから色々だって言っただろう」
「でも変よね。高い所がダメなあんたみたいのなら別として、どうもない人間なら取りに来ないのかしら。だって、あのルディア様の剣でしょう。使えないにしても価値はあるでしょう」
「もちろんやって来るさ。ほら、今でもあそこに」
よく見ると、壁の何ヵ所かに、山頂を目指して上っている人の姿がある。
「そろそろか」
「そろそろ?」
訝しげに見ていると、ある程度山を登った辺りの岩陰から魔獣が顔を覗かせ、山を登る人間に襲い掛かった。
他の山を登る人間達にも、様々な魔獣達が襲い掛かって行く。
不意を突かれた人間達は、反撃する間もなく揉み合いながら下に落ちて行く。
「上る途中だから腕に覚えがあっても殆どの者がああやって無防備に襲われて落ちて行くんだ」
「だったら上空から行けば」
フリードは首を振り、上空を指差す。
その先には、サウロンに乗った魔獣召喚士らしき人物が見えたが、山肌から次々と様々な翼がある魔獣達が飛び立ち、襲い掛かる。
今度は不意ではない為に反撃に移るが、数を圧倒する魔獣達に取り囲まれ、一瞬にしてその姿が見えなくなってしまった。
「上もダメか。あの魔獣達は守護者なの?」
「いや、野生の魔獣だ。ここに居れば、向こうから食べ物が寄って来る訳だからな。それも、殆ど反撃を受けずに餌にありつける訳だからどんどん居つく魔獣が増えてるのさ」
「見たところ、それなりに強い魔獣ばかりみたいだけど」
「余りに魔獣が増え過ぎると、今度は餌が減るだろう。だから弱い魔獣達は縄張り争いに負けて弾かれているんだよ」
「なるほど、自然に生まれた魔獣の要塞って訳だ。ただそれ以上に、あんたにとっては高さが問題って事ね」
横目で見るフラムとパルの冷ややかな目をフリードは慌てて逸らす。
「取りに行くって大見得切ったくせに、何か策はあるんでしょうね?」
「あるでヤンスか?」
「それは……」
とうとうフリードは背を向けてしまった。
フラムは大きな溜息を吐く。
「それが分かっているから私にも行けって事だったのね」
「どうするでヤンス?」
「こんな時にもあの笑い声が聞こえてきそうだわ。こうなったらとことんやってやろうじゃないの」
フラムはその場にしゃがみ、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
右手を中心に魔獣召喚陣が現れる。
立ち上がり、魔獣召喚陣から出てその前に立ち、両手で素早く印を組む。
「魔界に住みし地の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、地魔獣ダーフント!」




