第七話 犬猿の仲
そこに現れたのは、女剣士のエレーナだった。
「ここには来たくなかったのに、途中で会ったエドアールにフリードの事を訊いたら話をはぐらかすから、もしかしたらって思って来てみたら、やっぱりここだったのね」
「そう言えば、あの子も剣聖の弟子って言ってたっけ」
「またややこしいのが来たでヤンス」
「どうすんの?」
フラムが隣に立つフリードに目を移すが、その姿は既に消えていた。
「いつの間に!?」
「オイラも気付かなかったでヤンスよ」
「いつもいつも、また逃げたわね」
エレーナは悔しそうに辺りを見廻す。
「まったく、お前も変わっとらんのお。まだフリードの尻を追っかけとるのか」
「あんたには関係ないわよ」
ウォルンタースに突っ掛かるエレーナに、フラムとパルは目を丸くする。
「師匠にあんたって……」
「お前の腕では一生掛かってもフリードに勝てんと思うがのお」
鋭いエレーナの視線がウォルンタースに向けられるのと同時に、エレーナは一瞬にしてウォルンタースに迫り、いつ鞘から抜き放ったのか、剣で斬りかかる。
「はやっ!」
更にフラムとパルを驚かせたのはウォルンタースだ。
目を見張る速さで斬り掛かるエレーナの剣を、剣を抜く事なく杖のままで捌いて行く。
それも、まるで修行をつけるが如く涼しげな表情でその全てを軽々と。
「ここを出た時よりはましにはなっとるか。そこそこは腕を磨いとったと言う訳じゃな。じゃが、まだまだじゃのお」
「余計なお世話よ!」
「ほっ、ほっ、ほっ」
荒々しくも速いエレーナの剣捌きにも、さすがは剣聖と言うべきか、ウォルンタースはまるで苦にもしない。
「どう見ても師弟って感じじゃあないわよね。エレーナの方は殺気まで感じるもの」
「よっぽど恨まれる事をしたでヤンスかね」
「あの先生ならやりかねないけど、少し違うような気が……」
「何が違うでヤンス?」
「そんなこと知る訳ないじゃないのよ」
「でヤンスね」
ウォルンタースと少し距離を置いて止まったエレーナは、剣を鞘に納め、ウォルンタースを指差した。
「今に見てなさい。フリードだけじゃなく、あんたも絶対に負かしてやるんだから!」
そう言い放って踵を返し、フラムを睨むように一瞥してから森の中へと駆け去って行った。
「儂を負かすとな。実に楽しみな事じゃ。ほっ、ほっ、ほっ。それはそれとして、そろそろ出て来たらどうじゃ? 行ってしもうたぞ」
ウォルンタースの声に誘われるようにして、森の一角からフリードが警戒しながら姿を見せた。
「ずっとそこに居たの? だったら出て来なさいよ」
「そう言う訳にも行かないだろう。お前も見ただろう、エレーナのあの気性を」
「まあね。でも、どう見てもあれって、師匠と弟子って関係には見えないんだけど。それに先生の事をあんたって呼んでたし」
「ああ、エレーナは仕方がないんだ。先生の弟子であると同時に先生の孫でもあるからな」
「孫!?」
フラムとパルの驚きの声が揃った。
「ほっ、ほっ、ほっ、あ奴は弟子どころか孫とも思っとらんじゃろうがな」
「じゃあ、孫って事はもしかして……」
「ああ、ジオーネの子供だよ」
「そうなんだ。でも、さっきのはどう見ても殺しにかかってたけど」
「まあ、色々あるんだよ。ただ、俺の口からはちょっとな……」
フリードはウォルンタースの顔色を窺う。
「別に隠す話でもなかろ。儂から話す気はないがのお」
背を向けるウォルンタースに、話していいものかどうか、決めかねて渋い顔をする。
「ちょっと、何なのよ。気になるじゃないのよ」
「そうだな。ここまで話しておいて話さないって言うのもなんだしな。エレーナが先生を恨むようになったのは、ジオーネの死が起因しているんだ」
「ジオーネの?」




