第六話 改めて
次々と地中から出て来ては襲い来る巨大かつ凶暴そうな魔獣達を、ウォルンタースは苦も無く一瞬にして切り裂いて行く。
「これが剣聖か。圧倒的じゃないの……」
「凄いでヤンス……」
「ルディア様も剣の一振りで数匹の魔獣が真っ二つになったと聞いてるぞ」
「想像すら出来ないわ」
「ここに先生が居なかったらどうなるか。今まで鳴りを潜めていたケイハルトが動き出したのも、このディオドスの時機を待っていたのかもしれない。先生が動けないのを知っているだろうからな」
「何を言うとるか。先程も言うたが、もしここを動けたとしても、儂がケイハルトをどうこうしようとは全く思っとらんわい」
ウォルンタースがフラム達の元に歩み寄って来たが、
「先生、後ろに!」
背後にはまだ残っている魔獣達の一匹が迫っていた。
「分かっとる」
後ろを振り返ったウォルンタースが、目の前に立つ魔獣を一睨みすると、魔獣は石化したかのように固まって全く動かなくなった。
「とっとと失せんか!」
ウォルンタースの威圧ある声にようやく動き出した魔獣は、慌てて背を向けてその場から逃げ出し、地面に空いている亀裂の中に飛び込んで行った。
他にも数匹残っていたが、その全ても亀裂の中に戻って行った。
「まったく、こんな魔獣一匹に手間取っておるようではまだまだじゃのお」
「先生が凄すぎるんですって」
「そんな事を言うておるから剣の腕が上がらんのじゃ。ましてやケイハルトなんぞ、儂にしたら赤子も同然じゃぞ。お前らだけで何とかしてみんかい」
文句を言いつつ刃を鞘に納めると、それは杖に戻った。
「さてと、疲れたので戻るとしようかのお」
横を通り過ぎようとしたウォルンタースの前にフラムは廻り込み、片膝を地に落として頭を下げる。
パルは察してフリードの肩に飛び移る。
「何のつもりじゃ?」
「まだ正式にお願いしていなかったので、改めて私に修行をつけて下さい。お願いします」
「儂の考え方が気に食わんのではないのか?」
「それは変わってません。でも、人を頼らず、私達だけで何とかしろって言うのも分かります。ただ、先生の実力を見せられたらまだまだ自分は非力で。何とかしろって仰られるなら、それだけの力を私に与えて下さい」
「ほう、屁理屈かい。いや、この儂を脅すように言うとは恐れ入ったわ。まあ、元々儂は来る者を拒まず、去る者を追わぬ主義じゃ。勝手にせい。ほっ、ほっ、ほっ」
ウォルンタースは杖を突きながらその場をゆっくりと去っていく。
「とりあえず丸く収まったって所か」
「でヤンスね」
丸く収まった……とは行きそうもなく。
「もう、何で毎日毎日こう雑用ばかりなのよ!」
「ほっ、ほっ、ほっ、当然じゃろう。最初に残った時間で修行すると申したであろうに。時間が余らねば修行は出来ぬぞ」
「先生、そろそろ勘弁してやったらどうです?」
「そうじゃのお。頑張っておるのは確かじゃからのお」
「何? 何? 何の話?」
フリードとウォルンタースの遣り取りに、フラムは眉を顰める。
「元々先生が修行に来た人間に雑用をさせるのは、その人間を観る為なのさ」
「人間を観る?」
「正確に言うと人間性だ。いい加減な気持ちでここに来た連中は、大概雑用ばかりさせられると直ぐに辞めちまうからな」
「来るもの拒まずとは言うてはおるが、さすがに大勢来られても困るのでのお」
「先生に師事しに来る者は多いからな」
「つまり、試されてたって訳ね。まったく、人が悪いんだから」
「でも、それで言えばフラムも一度は投げ出したでヤンスよ。つまり、フラムもいい加減って事でヤンスね」
「あれ、そうだったっけな……」
肩に乗っているパルにツッコまれ、フラムがはぐらかすように顔を背けたその時、
「やっぱりここに居たのね」
あらぬ方向から、聞き覚えがある声が飛んで来た。




