第三話 爆発
翌朝、予想通りと言うべきか、前日の疲れもあってフラムとパルは寝坊し、言われていた通り朝飯を抜かれてしまった。
その影響もあってか、作業も捗らず、前日よりも遅い終わりとなってしまった。
更に翌朝、少し体が慣れたのか、フラムとパルは寝坊する事はなかったが、全ての作業が終わる頃には夜の帳が下りようとしていた。
そして四日目……。
「ああ、もう嫌。こんな事をしていても埒が明かない。修行をしてくれないならこんな所に居ても意味がないわ」
「おい、フラム」
不満爆発のフラムを、近くに居るフリードが宥め様とするが、
「そもそもおかしいわよ。剣聖はケイハルトの先生でもあるんでしょう。だったら、幾ら年を取ったからってケイハルトをどうにか出来るはずでしょう。自分の教え子が悪い事をしてるって言うのに、こんな所でのんびり過ごしてないで何とかしたらどうなのよ」
次々と不満をぶちまける。
「ほっ、ほっ、ほっ、好きな事を言ってくれよるのお。確かにケイハルトは儂の教え子じゃが、その時は今のような人間ではなかったからのお」
「昔がどうかだったかなんて、それこそ私には関係ないわ。あいつは私の両親を殺したのよ」
「そ、そうだったのか?」
初耳のフリードは戸惑うばかりだ。
「あ奴はお主の両親だけではなく、他にも多くの者をその手にかけておろう。じゃが、そうなったのはあ奴自身の問題じゃ。どうして儂が止めねばならぬ?」
「先生、そんな言い方は━━」
「元からこんなところ来るんじゃなかったわ!」
フラムはその場から駆け去ってしまった。
「おい!」
「止めておけ」
後を追おうとしたフリードを、ウォルンタースが止める。
「お前も知っておろう。儂は来る者を拒まず、去る者を追わぬ主義じゃ。教えて欲しくないのなら仕方あるまい」
「何もそんな言い方をしなくても。全く先生は、いつも人に嫌われるような事ばかり」
「だから言っとるじゃろう。儂は聖人でも何でもないとな。ほっ、ほっ、ほっ」
フリードの口から溜息が洩れる。
「いいでヤンスか?」
森の中を当てもなく歩くフラムの肩に乗るパルが心配そうに声を掛ける。
「いいのよ。あんな無神経な人間が剣聖って呼ばれているのがおかしいのよ」
フラムの怒りはまるで収まっていない。
「でも、どうするでヤンス? 他に修行をつけてくれる人間が居るでヤンスか?」
「それは……」
ただただ途方に暮れて歩くフラムの行く手の脇の一本の木に、フリードが寄り掛かって立っている。
パルはその姿を目で追うが、フラムは気付いた様子もなく淡々と歩みを進める。
更にフリードが先廻りして、同じ様に気に寄り掛かる。
またパルがその姿を目で追うも、フラムは通り過ぎて行く。
「おいおい、無視するなって!」
「さっきから何なのよ、一体? 格好つけちゃって。そもそも幾ら足が速いからって、何で後ろに居たはずのあんたが先に居るのよ」
「この森は俺の勝手知ったる庭だぜ。抜け道や先廻りする道なら頭に入ってるさ」
「あっそう……」
フラムはまた歩み始める。
「だから待てって」
フリードは慌てて横に並んで歩き始める。
「何を言っても無駄よ。あんな剣聖に師事する気はないから」
「ああ、あの調子だと何を言っても無駄だろうな。ただ、このまま先生を誤解されたままでも困るからな」
「誤解って━━」
「ちょっとこっちに来い」
フラムの言葉を遮って、その腕を掴むなり、フリードは強引に引っ張って歩み出した。
「ちょっとちょっと、何処行くのよ!」
「いいから来いって」
嫌がるフラムの手を引きながら、森の中を縫いながら奥へ奥へと進んで行く。
肩に乗っているパルはどうしたものかと、腕を組んで首を右に左にと傾げるばかりだ。
「いい加減にして! 何処まで連れて行くつもりなのよ」
ようやくフラムがフリードの手を振り払って止まった。
「ここだ」
「ここ?」
訝しる顔を振り向けたフラムが、森の先を見たその顔がパルと共に驚愕に染まる。
「何よここ!?」




