第二十七話 しつっこい連中
「全く、大したお金しか払えないと、ろくな連中も雇えやしない」
ずんぐりとした体形の小男を先頭に、少し年配の夫婦らしき男女が並んでゆっくりと姿を現した。
「どうやら家族みたいだけど、何処の誰よ? いえ、ちょっと待ってよ。何処かで見たような覚えがあるような……」
「オイラも見覚えがあるでヤンスよ」
見覚えがあるものの思い出せず、フラムとパルは思案に暮れる。
「全く、こっちは一日足りと忘れた事がないのに、腹が立つ奴だ」
「こちらは貴女の御蔭で全てを失ったのよ」
「相当恨まれているでヤンスよ」
「その口調、ちょっと待って。服装がまるで違っているから分からなかったけど、確かアガレスタ国のバカ王子とその両親!」
「誰がバカ王子だ!」
怒りをぶつける小男は、豪奢だった王子の服装とはまるで違う質素な服装をしているものの、シャルロアのフィアンセだったアドルフォ王子だ。
その後ろに並ぶのは、同じく質素な服装に変わっているものの、アガレスタ国王と王妃に間違いなかった。
「何であんた達がここに?」
「全てはお前のせいだ。お前さえあの場に来なければ、全て上手く行っていたのだ」
「そうだ。結婚の話が流れてしまったばかりか、国を追われ、こんな辺鄙な場所に暮らす羽目になってしまった」
アドルフォ王子と王が口々に恨み節を並べる。
「勝手な事を言わないでよね。アルドの口車に乗せられて、変な計略を練るからそんな事になっちゃっただけでしょう」
「でヤンスよ」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
「私の可愛いアドルフォちゃんがフィールに乗っているあなたを見つけてようやく復讐する機会を得たのですよ」
「それも、そこの娘に会っているのを見たらしく、これは使えると思ったのでな」
「お前を殺せはしなかったけど、あの二人もここまで連れてきた事は褒めてやるよ。僕が直々に手を下せばいいんだしさ」
悪辣な笑みを見せるアドルフォ達を、フラムは鼻で笑る。
「まったく、人を誘拐するような人間が元々王族に居ること自体が間違いなのよ」
「でヤンスね」
さすがにそれには返す言葉もなく、アドルフォ達は苦々しい顔になる。
「第一、私があんた達になんかやられる訳がないじゃないのよ」
「まともにやれば敵わないさ。でも、こっちにはこれがある」
アドルフォが少し上げた右腕の手首には、煌びやかな腕輪が付けられている。
「腕輪って、まさかそれアルドの!?」
「城を追い出される前に持ち出せるだけの金品と一緒に、その何とかって科学者に乗っ取られたダルガンの部屋からこれを持って来たのさ」
「でも、声は変わってないようだけでど。じゃあ、あれは意識を乗っ取る魔導具じゃないってこと?」
「試すには勇気が要ったけどな」
「何言ってんのよ。あんたに勇気なんてないでしょうに」
「でヤンスよ。どうせ誰かを雇って使わせたでヤンスよ」
またアドルフォは苦々しい顔で押し黙る。
「どうやら図星だったようね」
「うるさい! こいつがあれば、お前なんか大したことがないんだからな。何てったって、雇った奴は竜魔獣を呼び出したんだからな」
「やっぱり雇ったんだ━━って、竜魔獣?」
「嘘じゃないぞ。名前は確か、アリ、アリオン」
「まさかアリオンテ!?」
「おお、そうそう、そんな名前だったっけな。どうだ、ビビったか? 呼び出した奴はその竜魔獣に食べられちゃったけどな」
「でしょうね。操縛の印はかけられないでしょうから。それにしても、あのアリオンテを呼び出したのはこいつだったのか。こっちは随分大変な思いをさせられたわよ。まあ、御蔭で召喚獣に出来たけどね」
「何の事だ? まあ、そんな事どうでもいい。これからもっとビビらせてやる」
アドルフォはその場にしゃがみ、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
下した手を中心に、かなり大きな魔獣召喚陣が輝きを見せた。
「この大きさ、また面倒臭いものを呼び出しそうとしてるわね。今日は色々とあったから、もう魔獣も召喚出来そうもないのって言うのに。とにかく、ディコ達は少し下がってて」




