第二十四話 違和感
ジオーネが抜いた剣には刃がなく、柄だけが握られている。
「どういうつもり? まさかバカにしてる?」
フラムはあからさまにジオーネを睨む。
「まさか。この剣は僕にとっての最良の剣なのでね」
ジオーネが持つ柄から炎が噴き出した。
「なっ!?」
噴き出した炎が剣の刃の形を成す。
「さあ、行くよ!」
「はやっ!」
一瞬にして間合いを詰めたジオーネは、炎の刃をフラムに振り下ろす。
フラムはそれを剣で受け止めようとしたが、元々刃がない為に炎がすり抜け、フラムを襲う。
「フラム!」
炎の刃がフラムに当たる寸前に、炎が凍り付いて止まった。
凍り付いた炎が粉々にはじけ飛ぶと共に、今度はフラムが刃を失ったジオーネに剣を振り抜く。
これをジオーネは飛び退って躱した。
「へえ~、フラントからすると炎の魔獣遣いだと思っていたけど、冷気も使うのなら君も特異質みたいだね」
「フラム、冷気も使えたでヤンスか?」
「とっさに出ただけよ。使えなかったら殺されてたわね。それにしても、君もって事はあんたも特異質なわけ?」
「まあね」
ジオーネが持つ柄から今度は冷気が噴出し、氷の刃と化した。
また一瞬にしてフラムに迫り、氷の刃を振るう。ただ、今度はジオーネの素早さを知っている事もあり、フラムも慌てずに剣で氷の刃に合わせる。
氷の刃は実体を持つだけあって剣で受け止められたが、粉々になると共にまたすり抜けた後に今度は石の塊のようなものが伸びて刃と化した。
フラムもそれを見越してか、剣を素早く返して合わせるが、受け止めた刹那、激しい衝撃が両手を襲う。
「痛っ!!」
何とか剣を手放さずに今度はフラムが飛び退った。
「何なのよ、その剣は? 反則過ぎない?」
「だから言っただろう。この剣は僕にとって最良の剣だってね。でも、君も大したものだよ。ここに来た人間でここまで僕の剣に合わせられたのは君が初めてだからね。ただ、まだまだ属性の力がちゃんと使えないようだけど」
「だから剣聖に修行して貰おうとしてるんでしょう」
「ああ、それもそうだね」
「いまいち掴み所がない人間ね」
「そうかな。さあ、続きを始めようか」
今度はその場でジオーネが一振りした柄から突風が吹き出し、それが刃と化してフラムを襲う。
フラムは剣で風の刃の軌道を変えて何とか弾き飛ばすが、直ぐ目の前にジオーネが迫る。
炎の剣がフラムを襲う。
「舐めないでよね!」
フラムは自らの剣でジオーネの柄から伸びる炎を巻き取るように奪い取り、逆にジオーネに斬り掛かった。
寸止めにしようとしたが、ジオーネの強さに反撃の恐れを感じたのか思わずそのまま振り抜いてしまった。
ただ、その手に手応えがなかった。
「え!?」
飛び退ったジオーネの体にも傷すら全くなかった。
「確かに斬ったと思ったのに……」
「お見事だよ。僕に一太刀入れるなんて大したものだよ」
「一太刀って、全然斬れてないじゃないの」
「それは━━」
と、その時、今まで笑顔を絶やさなかったジオーネの顔が、急に険しく変わる。
「どうしたの?」
ジオーネは洞窟の奥に広がる闇を一瞥してからその顔に笑みを戻す。
「どうやら君との手合わせもここまでのようだね」
「今のが手合わせ? まさか手を抜いていたとでも言うつもり?」
「まあね」
「とことん自信家ね」
「信じるも信じないのも君の自由だけど。僕は忙しい身なのでね。もう行かせて貰うよ」
「ちょっと、剣は!」
奥に向かって歩み出そうとするジオーネを、フラムが慌てて呼び止める。
「ああ、そうだったね。これを渡しておくよ」
ジオーネは腰に付けている空の鞘を外してフラムに放り投げた。
フラムは慌てて受け取った。
「その鞘は元々その先にある剣の物だよ」
「じゃあ」
「持って行っても構わないよ。君ならヴァイトを扱えるようになるだろうし、何より正しく使って貰えるだろうからね」
踵を返したジオーネの歩みが再び止まる。
「ああ、それと。剣聖によろしく。あと一つ、これは忠告だけど、剣を取ったらそれ以上奥には来ないこと。死にたくなかったらね」
意味深な言葉を残し、ジオーネはボルドーネを連れて洞窟の奥に広がる闇の中へと消えて行った。
「奥に行くなって、何があるのかしら……?」
「最後に見せた笑顔が余計怖いでヤンス」
ずっと飛びながら傍観していたパルがフラムの肩に戻って来る。
「それにしても強かったでヤンスね」
「確かに。手を抜いてたって言うのもあながち嘘でもなさそうね。まあ、剣はくれるって言うんだから、さっさと貰って行きましょう」
剣を鞘に戻したフラムは、またフラントの炎を明かり代わりに少し奥にある剣が地面に刺さっている場所まで戻る。
長い間刺さっていたらしく、なかなか引っこ抜く事が出来なかったが、フラントが柄を咥えて吹き上げると、剣は見事に地面から引き抜かれた。
「さあ、これで戻れるわね」
フラムがフラントから受け取った剣をジオーネに渡された鞘に納めたその時、強烈な悪寒が体全体を襲う。
「何よ、この感覚は!?」




