第二十三話 守護者
軽い地響きを起こし、奥の闇の中から四つ足の巨大な魔獣が姿を現した。
「ボルドーネ!?」
フラムの前で立ち止まったボルドーネは、咆哮を上げる。
余りの大声に、フラムとパルは耳を押える。
「こんなのが居るって聞いてないわよ」
「来るでヤンスよ!」
向かって来たボルドーネに、フラムは慌てて剣を抜き、噛みついて来た牙を剣で弾く。
「フラント! パル!」
「分かってるでヤンスよ!」
フラムの肩から飛び立ったパルが吐いた炎をボルドーネが軽々と躱した所に、フラントがボルドーネの首に噛みついた。
ボルドーネは激しく暴れ出し、フラントを振り払う。
飛ばされたフラントは近くの壁に叩き付けられ、その場に倒れると共に、体を覆う炎が消えてしまった。
辺りは明かりを失い、漆黒の闇に包まれてしまった。
「何も見えないでヤンス」
「喋っちゃダメ。位置を探られるわよ」
暗闇と静寂が訪れる中、体を起こしたフラントが再び炎を纏い、明るさが戻る。
「ようやく見えるように━━」
安堵したフラムの目の前に、ボルドーネの大きな顔があった。
フラムの悲鳴とボルドーネの咆哮が滝の外に洩れ、外に居る人々の怪訝を誘う。
直ぐにパルが炎を吐き、ボルドーネはフラムから離れた。
「助かったわ!」
フラントがボルドーネに飛び掛かり、揉み合いになっている所に、フラムが駆け寄って斬り掛かる。
ボルドーネの体がスパークし、電撃を受けてフラントは痺れつつも慌ててボルドーネから離れて電撃を逃れる。
「これでどう!」
フラムの剣が炎を纏った。
その剣でボルドーネから迸る電撃を薙ぎ払いつつ、ボルドーネに斬り掛かる。
ボルドーネも再び牙を使って剣を受け止める。
ぎしぎしと牙と剣の音が聞こえる中、フラントの横からの体当たりが直撃し、今度は飛ばされたボルドーネが壁に叩き付けられる。
倒れ込んだ所に、パルが吐いた炎がボルドーネの頭部を包む。
「どうでヤンス!」
勝ち誇るパルの前で、ボルドーネは悲痛な声を上げるが、激しく振るった頭部の炎は呆気なく消えてしまった。
ボルドーネが身を低くして唸るのを見て、フラム達も身構える。
と、その時、
「ボルドーネ、止めろ!」
奥の闇から聞こえて来た声と共に、ボルドーネが唸るのを止めて体を起こす。
「誰か居る?」
奥の暗闇の中から、ゆっくりと姿を現したのは、小柄な優男だった。
「僕のボルドーネとあれだけ出来るなんて、おたくやるね」
「あんたのボルドーネ? あんた何者?」
「僕はジオーネ。ある方にあっちにある剣を守れって言われててね。いわば守護者って所かな」
「それはご丁寧にどうも。私はフラムよ」
「オイラはパルでヤンス」
「おや、喋る魔獣なんて珍しいものを連れてるね」
「そんな事はどうでもいいのよ」
「どうでもいい事ないでヤンス」
パルは肩を落とす。
「あんたが言うあのお方って剣聖の事でしょう。私はその剣聖に剣を持って来るように言われて来たのよ。素直に渡してくれないかしら?」
「君も剣聖の弟子なのかい?」
「これからだけどね」
「これから?」
「修行をつける前に私の剣の片割れを取って来いって言われたのよ」
「そうか、君が持っている剣はヴァイトなのか」
「ヴァイト?」
「聞いてないのかい? ルジェロンの十傑には名前が付けられているんだよ。で、その二振りの剣は一対でヴァイトと呼ばれているんだよ」
「へえ~、あなた随分と博学でもあるのね」
「それほどでもあるけどね」
「自信家でもあるでヤンス」
「そのようね。それで、すんなり剣を渡して貰えるのかしら?」
「すんなりとは無理かな。持って行きたいなら僕に勝ってからにして貰わないと」
「結局そうなるのね。まあ、守護者って言っていたから、薄々そんな感じはしていたけど」
「ボルドーネは使わないよ。その代わり、そちらも魔獣は使わないで貰うよ」
「一対一って事ね。パルが言った通り自信家の様ね。まあ、不正はしなさそうだし。但し、甘く見ない方がいいわよ」
フラムは剣を構え直す。
「そちらこそ」
ジオーネも腰にある鞘から剣を抜いた。しかし、
「何よ、その剣!?」




