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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第六章 邂逅(かいこう)

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 第二十話 もう一本の剣

「さて、何から話そうかの」


 部屋の中央に置かれたテーブルの周りに置かれた椅子に座るなり、ウォルンタースが切り出す。


「私がここに来たのは━━」


 フラムも椅子に座るなり切り出すが、


「分かっておる。修行に来たのであろう」

「どうして?」


 パルはフラムの肩からテーブルの上に場所を移す。


「まあ、儂の所に来る連中の殆どが剣の手解きに来る奴ばかりじゃからな。何より、お前の事は頼まれておったからの。もしここに来る事があれば、修行してやってくれとな」

「頼まれたって。誰から?」

「ルディアじゃよ」

「ルディア様が?」

「生前に頼まれておってな。孫娘を頼むと。あの好々爺(こうこうや)の馬鹿たれが」

「孫娘って、関係も知っておられるんですか? そもそも、どうして私の事が直ぐに分かったんです?」

「その剣じゃ。それはヴァルカンの剣であろう。エルベルトの死後、お主をヴァルカンに預けたとも言っておったのでな」

「それで……」


 そこに、部屋の奥からフリードがお茶を乗せたお盆を持って来て、テーブルの上に配膳する。


「すみません。私とルディア様の関係はどうか内密に」


 フラムがウォルンタースに小声で言う。


「何だ、話しとらんのか。まあ、フリードは口が軽いからの。ほっ、ほっ、ほっ」

「何の話だ?」

「何でもないわ」


 問い掛けるフリードに、フラムは慌てて首を振る。


「怪しいな」

「いいのよ。それにしても、先生とルディア様はどう言う関係なんですか?」

「関係? そうじゃな。悪友と言った所かの」

「悪友、ですか?」

「あ奴とは昔から何度となく剣を合わせて来た。じゃが、一度たりとも決着が付いた事はない」

「化け物と化け物の戦いか。想像するだけでも凄そうね」

「でヤンスね」

「先生とルディア様が? 見てみたかったな……」


 フリードが席に着きながら洩らす。


「あれほどに強かった者が、病魔には勝てなんだとは。実に惜しいものよのお……」


 話すウォルンタースの表情は、何処となく儚くも悲しげに見える。


「どうやら仲は良かったようね」

「でヤンスね。誰かさんとの関係に似てるでヤンス」

「誰の話?」

「何でもないでヤンス」


 思わず口を押えるパルに、フラムは首を傾げる。


「ただ、私は剣を教わりたくて来たんじゃないのに、アインベルク様はどうして先生を進めたんでしょうか?」

「あのじゃじゃ馬め。何も教えとらんのか」

「じゃじゃ馬? あの氷の女王って言われるほど冷静なアインベルク様が?」


 フラムとパルは驚きの顔を見合わせる。


「ここで修行しておった頃は、手の付けられんじゃじゃ馬じゃった」

「アインベルク様が先生の下で?」

「あ奴だけではない。他の五賢人やお前の父親も儂が手解きしたのじゃよ」

「その全員がここで!?」

「さすがに剣聖と呼ばれるだけあるでヤンス」

「でも、アインベルク様は棒術で、ビエント様は槍遣いですよ」

「剣聖とは呼ばれとるが、儂は武具を選ばず、あらゆる武具に精通しておる」


 言葉にはしなかったが、それを五賢人に手解きするほどの腕である事を考えると、ただただ驚くしかない。


「全く、あのじゃじゃ馬が今やアルファンドの王妃とは、未だに信じられんわい。まあ、それはそれとして、お主が教わりたいのは、属性の力を上手く剣に留められんと言う事じゃろう」

「どうしてそれを?」

「お主の父と祖父は特異質であった。恐らくお主もまた特異質であろう」

「ええ、まあ」

「特異質は色々な属性をそれなりに使える利点はあるが、一つを極める事が出来ず、力を使うのが難しいと言う難点もある」

「アインベルク様も同じような事を言っておられました」

「そりゃあ儂が教えたからの」

「先生が? どうしてそんなに詳しいんです?」

「儂も魔獣召喚士じゃからな。それも、特異質のな」

「先生が魔獣召喚士!?」


 フラムだけではなく、フリードも驚く。


「それは俺も初耳ですよ」

「聞かれなかったからの」

「じゃあ何で剣聖って?」

「それは周りが言うとるだけじゃ。儂は聖人でも何でもない。はた迷惑な話じゃ。全くアインベルクめ、何も言うとらんではないか」

「じゃあ本当に、もってこいの先生なんだ。改めてお願いします。私に修行をつけて下さい」


 フラムは席を立ち、頭を下げる。


「それは頼まれておる以上、構わんと言っておろう」

「それじゃあ」

「じゃが、修行の前に一つ、取って来た方がよいものがある」


 笑みを上げたフラムの顔は、直ぐに訝しげなものとなった。


「取って来た方がいいもの?」

「剣じゃよ」

「剣? 師匠の剣ではダメなんですか?」

「そうではない。その剣は元々もう一振りの剣と二本で一対を成す武具じゃ。それも、そもそもそれはヴァルカンではなく、お前の父エルベルトが持つべき武具であった」

「父さんが!?」

「そう、かの名工と言われるルジェロンが仕立てた十傑(じゅっけつ)と呼ばれる武具の一つじゃよ。特にその剣は特異質に特化している剣での。ルディアがエルベルトに渡そうとしたのじゃが、戦いを好まぬエルベルトはそんな大層な剣はいらぬと断っての。それで紆余曲折あってヴァルカンが所有する事になったのじゃが、二本は扱い切れぬと一本のみを受け取った経緯がある」

「そんな(いわ)れがあったなんて。もしかして師匠はそれでこの剣を私に?」

「そうかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。まあ、収まる所に収まったのかもしれぬな。どちらにせよ、二本の剣が揃えば、そしてそれを扱えるようになれば、確実にお主の力となろう」

「それで、もう一本は今どこに?」

「アンチエゴ大滝にある」

「アンチエゴ大滝!?」


 フラムとパルの驚きの声が揃った。

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