第十五話 晴れのち驚き?
「でも、これどうするんだよ?」
愚痴を洩らすフリードの目の前には、濃い霧が壁のように前方の視界を塞いでいる。
「さすがにこう霧が濃いと、魔獣達の位置も数も分からないし、迂闊に入る事も出来ないわね」
「だろう。こんなの俺一人でどうにもならないって」
「何言ってんの。さっきも言ったけど、剣聖があんたにやれって言ったって事は、出来ると見込んだからでしょう」
「無理! 無理! 無理……!」
エドアールは激しく横に首を振る。
「自慢げに言う事じゃないでしょうに」
「でヤンスよ」
「なあ、この間ビエント様が煙を吸い込んでいたような事がお前は出来ないのか?」
「バカ言わないで。あっちは五賢人なのよ。それも風の魔獣召喚士を冠する。そうそう真似出来るはずが……いえ、そうよ。何も私自身がする必要はないわけよね。ちょっと離れてて」
フリードとエドアールが離れるのに合わせて、フラムはその場にしゃがみ、右手を地面につける。
「アルシオンボルトーア!」
立ち上がり、魔獣召喚陣から出てその前に立ち、両手で素早く印を組む。
「魔界に住みし風の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、風魔獣バトロス!」
魔獣召喚陣が強烈な光を放ち、その中からずんぐりとした魔獣が十匹飛び出して来た。
「あれ、そいつって前に召喚したあの万能魔獣か?」
ドゥーブによく似たその姿に、フリードが訊く。
ただ、ドゥーブが鼻が肥大していたのに対して、現れた魔獣は口が顔の大半を占めている。
「この魔獣の名前はバトロスよ。ドゥーブに似てるけど、こう言う時はドゥーブより役に立つわよ」
「本当か? 大層な名前の割にはそう言う風には見えないけどな」
エドアールが疑いの目を向けて一匹のバトロスの頭を叩いていると、そのバトロスが飛び上がり、大きな口を開けてエドアールの頭に被りついた。
エドアールは慌てて外そうともがくが、全然外せない。
「バトロス、止めときなさい。そんなもの食べたって、お腹を壊すだけよ」
フラムに言われてバトロスはエドアールの頭から離れた。
「あ~、死ぬかと思った」
「あんたがバカにするからよ」
「本当でヤンス」
「今回はお前が悪い」
「何だよ、みんなして……」
エドアールは膝を抱えて地面に人差し指をぐりぐりとする。
「いじけてるでヤンスよ」
「おいおい、しっかりしろよ」
「放っておきなさい。さあバトロス、仕事よ。頑張ってちょうだい」
フラムの指示により、十匹のバトロスはケーレを包む霧の周りに散り散りになり、等間隔になるような場所で配置に就くと、顔の大半を占める口を目一杯開いた。
「さあ、目一杯吸い込んで!」
バトロスが音を立てて空気を吸い込むと、濃い霧もまたバトロスの大きな口の中へと吸い込まれて行く。
濃かった霧はどんどん十匹のバトロスの口の中に吸い込まれて行き、瞬く間に薄くなって行く。
「こいつは凄いな」
「でしょう。バカにする誰かさんよりよっぽど役に立つわよ」
「どうせ俺なんか……」
エドアールは膝を抱えたままだ。
「まだいじけてるでヤンス」
「おいおい」
ある程度霧が晴れ、視界が開けた所で十匹のバトロスを呼び戻して魔獣召喚陣の中に回収してから、フラム達は道なりに歩き出した。
「ところで、ケーレの人達はどうしたの?」
「ディオドスの兆候が見られて直ぐに、先生の指示で他の場所に避難している」
答えるエドアールは、フラム達の少し後ろを歩き、まだへこんでいる。
「まったくもう、いい加減しっかりしなさいよ。こっちまで滅入りそうだわ」
「おい、ぼちぼちケーレが見えて……あれは?」
「何よ、あれ!?」
目の前に広がる光景に、全員が驚きの余りに立ち尽くす。




