第十四話 ディオドス
「行った?」
霧の外れにある木々の陰に隠れて様子を窺うフラムが、同じく違う木々の陰に隠れて様子を窺うフリードに訊く。
追って来た魔獣達は、霧の外れ近くまで来て辺りを見渡した後、濃い霧の中へと戻って行った。
「何とか行ってくれたみたいだな」
ホッとしつつフラムとフリードは木の陰から出て来て、霧の前まで戻って来る。
「それにしても今の魔獣は何なのかしら? 子供が雷魔獣で親が氷魔獣って、有り得ないんだけど」
「やっぱりお前らか!」
突然後ろから聞こえて来た声に二人が振り返ると、エドアールが歩み寄って来た。
「おお、やっぱりエドアールか。久しぶりだな」
「それにしても妙な取り合わせだな。知り合いだったのか?」
「俺もびっくりだ。お前がフラムと知り合いとわな」
「今はそんな事はどうでもいいのよ。どうしてあんたがここに居るのよ?」
「それはだな……」
エドアールが急に渋い顔になる。
「お前がアルファンドに来た時を覚えているだろう。あの時、母上の言いつけが守れなくてだな……」
「やっぱりあの時ね。アインベルク様から戻ってないって聞いたから、大体の察しはついていたけど」
「さすがにあのまま帰れないから暫く近くの別荘に身を寄せようとしたんだが、そこだと直ぐにばれるだろうから、旅に出てだな。ただそれも、使える金も限られているし、身を寄せる所って言っても、城からあまり出た事もない身だからそうもなくてさ」
「かのアルファンドの王子様が情けないわね」
「王子ってのも結構孤独なんだよ。そこで、思い当たったのが先生の所なんだよ」
「それじゃあ、やっぱり先生はケーレに居るのか?」
「いや、俺が見つけた時はオルトに居られた」
「じゃあ何でお前はケーレに? まさか、ディオドスが始まったのか!?」
「ああ、だから居候がてらと修行を兼ねて、ケーレに居ついた魔獣を何とかして来いと先生に言われてな」
「それで逃げて来たって訳だ」
「情けないでヤンスね」
フラムとパルの冷たい視線がエドアールに突き刺さる。
「待て待て。あんな得体が知れない魔獣があれだけ居るんだぞ。一人でどうこう出来るはずがないだろう」
「確かに私さえ知らない魔獣だったし、数も数だけど、剣聖があんたに任せたって事は、どうこう出来るからじゃないの?」
「それもそうだよな」
「おい、フリードまでそっちの味方かよ」
「それにしても子供が雷魔獣で親が氷魔獣って━━ちょっと待って。さっき言ってたディオドスって、まさかダルメキアと魔界を繋ぐ日の、あのディオドスなの?」
フリードとエドアールは揃って頷く。
「じゃあ、この近くに魔界の入り口が?」
「まあ━━」
フリードが答えようとしたのをエドアールが口を押えて止め、首を振る。
「それ以上は詮索無用だ。それより、ここで会ったのも何かの縁だ。ケーレに居る魔獣の討伐を手伝ってくれないか?」
「俺達がか? まあ、俺はいいとしても、フラムは急ぎの用があるからな」
「別にいいわよ」
「いいのかよ?」
「私の用って言うのもあんた達の師でもある剣聖に会いに来た訳だし。居場所が分かっているなら問題はないでしょう」
「それじゃあ、手伝ってくれるのか?」
エドアールが嬉々とした声を上げる。
「但し、条件があるわ」
「条件?」
「あんたが城に戻ったら、今回手伝った報酬を支払って貰いますからね」
「相変わらずちゃっかりしてるな」
「でヤンスね」
エドアールは少し難しい顔をしていたが、背に腹は代えられず、
「仕方がない。但し、俺が払える報酬も限界があるからな。幾ら王子と言っても湯水のように使える金がある訳じゃあないんだぞ。お前も知っているだろう。母上がどう言う人間か」
「分かる気はするけど。まあ、払ってくれるって言うなら、問題はないわ。そうと決まれば、とっとと終わらせましょうか」




