第十二話 因縁
第十二話 因縁
猛スピードで飛んで来たパルが、ヴェルクに向かって炎を吐いた。
ヴェルクは慌てて飛び退って躱す。
「間に合ったでヤンス」
「もう少しで神速のフリードの首を獲れたっていうのによ。何なんだ、そのちんけな竜魔獣は」
「ちんけじゃないでヤンスよ!」
睨むヴェルクに、パルはアカンベェして返す。
「助かっ━━」
フリードがパルに礼を言おうとした時、その体が逆さ吊りの状態で勢い良く持ち上がった。
砂煙を上げて地中から地魔獣ガンディオの巨体が姿を現した。
吊り下げているフリードを振り廻し、地面に叩き付けようとしたが、飛び上がったフラムが鞘から抜いた剣でガンディオの腕を斬り落とした。
投げ出されたフリードは体を廻転し、上手く着地する。
「危な」
「まったく、何が危ないよ。あれだけ大口叩いといて。相手が魔獣召喚士だって忘れちゃってんじゃないのよ」
「悪い。油断した」
「お陰でフラントを召喚する時間が出来たけど」
二人の前にフラントが出て来てヴェルクに向かって身構える。
「お言葉に甘えて二人で相手をさせて貰うわよ」
「構わねえよ。こっちは初めからそのつもりで用意させて貰っていたからな。ガンディオ!」
ヴェルクの声に反応して、更に地中から砂煙を上げて次々と新たに三体のガンディオが姿を現した。
最初に現れたガンディオも、フラムに斬られた右腕が復元する。
「ガンディオを四体も。魔獣召喚士としてもなかなかのようね」
「褒めても手は抜かねえぞ」
ヴェルクがアックスを振り上げた時、二匹のガンディオが突如苦しみ出した。
「どうした?」
体が真っ二つに分かれたのも束の間、音を立てて崩れ落ち、二匹のガンディオは一瞬にして瓦礫の山と化した。
急に険しい顔つきに変わったヴェルクが鋭い目線を向ける先に、剣を構えた一人の男が立っていた。
「貴様がやったのか? 何者だ?」
「あの男、何処かで……」
フラムは微かに覚えがある男の顔に記憶を辿るが、一早くパルが思い出す。
「あの時の男でヤンスよ。ほら、王位継承戦に来ていたライオと再三遣り合っていた男でヤンス」
「ああ、ルシェール様の再来とか言われてた……そう、確かシュタイルだっけ」
シュタイルは剣の切っ先をヴェルクに向ける。
「ようやく見つけたぞ。忘れた訳ではあるまい」
「何だ? 俺は貴様なんか━━シュタイル!? まさか貴様!」
「それは俺の武器だ。返して貰うぞ」
「何を言いやがる。今は俺のもんだ。欲しけりゃあ力ずくで取ってみな!」
ヴェルクの力が入ったアックスの一振りが地面に突き刺さると、大きく地面が割れ、その亀裂がシュタイルに向かって走る。
軽々と横に飛んで躱したシュタイルに、いつの間にか迫っていた一体のガンディオが巨大な拳で殴り掛かる。
これも慌てることなく飛び上がって躱したシュタイルは、一刀の下にガンディオを真っ二つに斬り、先の二匹と同様に瓦礫と化した。
「あっ! あいつ逃げるでヤンスよ!」
パルの声に反応し、シュタイルがヴェルクに目を向けると、残ったガンディオの背に乗り、自分で開けた地面の裂け目に飛び込む所だった。
ヴェルクを乗せたガンディオの姿は、裂け目の闇の中に消えて行った。
シュタイルは魔獣にも乗らず、後を追って裂け目の中に飛び込んで行った。
「あのまま飛び込んで大丈夫なの? それもそうだけど、あいつ予め地中に逃げ道を作っておいたのね。用意周到な奴」
フラムも後を追おうと魔獣を呼ぶ為にしゃがもうとするが、寄って来たフリードが肩を掴んで止める。
「あいつはシュタイルとか言う奴に任せておけよ。
お前には他にやる事があるだろう」
「やられそうになってた奴に言われても、余り響かないのよね」
「格好つかないでヤンス」
パルがフラムの肩に戻って来る。
「それを言うなって」
フリードは苦笑いしながらフラムの肩から手を放す。
「まあ、言ってる事は合ってるけどね。じゃあ、ここはあの男に任せて、私達は先を急ぎましょう」
フラムは剣を鞘に戻す。そして、神妙な面持ちを地面の裂け目に向ける。
「それにしても、あれだけ強い奴が戦いもせずに逃げ出すなんて。ライオとも互角に戦っていたみたいだし、あのシュタイルって男、一体何者なんだろう……」




