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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第六章 邂逅(かいこう)

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 第九話 終わりよければ……とは行かず

 フラムは地面に落ちている自分の剣を拾い、鞘に戻した。


「でも、どうするでヤンス。レガラントはライオが斬ってしまったでヤンスよね」

「あれ? あんたあの時気付いてたわけ。だったら助けに入りなさいよ。ライオに余計な貸しを作っちゃったじゃないの」

「オイラが目を覚ました時にはライオは助けに入っていた後でヤンスよ。それに━━」


 パルは思わず言葉を飲んだ。

 フラムは意味深な笑みを浮かべる。


「それに? そうよね。あのアローラって言う女もかなりの強さだったものね」

「フラムもやられそうだったでヤンスよ」

「確かにそうね」

「あれ、嫌に素直に認めるでヤンスね」


 いつもなら食って掛かるはずとパルは身構えていたのだが、拍子抜けする。


「今は認めるしかない。弱いのは事実だから。だからこそ、早く強くならないと」

「今までのフラムとは違うでヤンスね。それよりレガラントはどうするでヤンス?」

「そうね。召喚魔獣に出来なかったのは残念だけど、死体はあるんだし、報酬は貰っちゃおうかしらね。ライオが斬った事はあのアローラって女しか知らないんだし」


 フラムの顔が満面の笑みで満たされる。


「ちゃっかりしている所は今までのフラムと変わらないでヤンス」

「何か言った?」

「何でもないでヤンス。それで、あっちはどうするでヤンスか?」

「あっち?」


 パルが指差す先には、アローラによって凍らされ、依然として氷の彫刻と化しているエレーナの姿があった。


「すっかり忘れてた。どうしよう。あんたに溶かす事も出来るでしょうけど、今ここで溶かしちゃうと面倒な事になりそうだし……そうだ!」


 フラムは右の拳を左の掌で打ち鳴らす。


「どうせレガラントに凍らされたら町の人が溶かしてくれるんだから、任せればいいのよ」

「それでいいでヤンスか?」

「何よ。じゃあ、他にいい案でもあるわけ?」

「ないでヤンスけど……」

「じゃあ決まりね。フラントはレガラントの死体をここまで持って来て。お願いよ」


 フラントがレガラントの元に向かうのを見届けて、フラムは町人を呼ぶ為に反対の道に向かった。





「まさか、本当に倒しちまうなんてな」


 レガラントの屍と凍り付いたエレーナを二台の荷台のそれぞれに乗せ、ケンシルトに戻る最中、荷台を押す町人達は口々に感歎の声を洩らしていた。


「本当にいいでヤンスか?」


 町人達とケンシルトに向かうフラムに、肩に乗るパルの呆れた視線が突き刺さる。


「言ったらその口を剣で裂いてあげるわよ」


 パルは慌てて口を押える。

 フラントは既に召喚陣を作り、その中に戻してその姿はない。

 荷台の荷物はかなりの重さがあったが、何度も行き来して来た町人達は苦にもせず、さして時間もかからずにケンシルトに戻る事が出来た。

 ただ、出た時の町と帰って来た時の町の様子が違っていた。


「何事?」


 人が多く賑わいでいたのとは違い、数人が忙しく走り廻って何やら騒ぎ立てている。


「おい、一体何があった?」


 台車を押して来た一人が、慌てている一人の町人を捕まえて訊く。


「それが、バンタシア城が何者かに襲われて燃えているらしいんだ」

「城が?」


 その時、フラムの脳裏にライオとアローラの会話が過る。


「ちょっと、城って何処にあるの?」

「バンタシア城かい? それならここから南に少し行ったら見えてくるさね」


 町人が指した方向にフラムは急いだ。


「フラム、一体どうしたでヤンス?」


 パルが訊くも答えずに先を急ぎ、徐々に遠くに見えて来た城は確かに燃えていた。

 城の前に辿り着くと、傷ついた兵士が大勢見られた。

 消火に当たっている者、忙しくあっちへこっちへと動き廻っている者、へたり込んで動かない者と様々だ。


「ちょっと、一体何があったの?」


 へたり込む兵士の一人に声をかける。


「何者かが突然攻め込んで来たんだ。数は少なかったが、雷魔獣を遣う男がとにかく化け物の様な強さで、一瞬にしてこの有り様さ」

「雷魔獣、やっぱりライオだわ。それで、死んだ人は?」

「それが不思議なんだ。被害を確認して廻っている連中の話だと、今の所一人の死亡者も確認されていないらしい。今まで何らかの侵攻を受けた時は、少なからず死者が出て来たんだがな」

「誰も死んでない? ケイハルトがそんな指示するはずはないと思うんだけど。ライオは一体……」

「でも、表立って侵攻を始めたのは確かでヤンス」

「ええ。こっちも急がないと。好きにさせてなるものですか」


 決意も新たにフラムの表情も引き締まる。

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