カルテ725 石剣のバレオン その26
「……ああ、頼む」
まるで恐ろしいモンスターについて説明するかのような本多の語り口に、歴戦の勇者も思わず無意識のうちにうなずいていた。バレオンも雪崩については時々雪が積もった時に山奥で起こるらしいということくらいしか知識が無かったので、是非知りたかった。こいつは金を払ってでも聞く価値がある。
「わかりました、ちょっと長くなるけどお話ししましょう。さて、雪崩ですが、これまたいつどこで発生するか正確なことを予想するのは難しく、しかも山の天気は変わりやすいので避けるのは非常に困難です。
氷のように固くなった雪面の上に新雪がすごい勢いでどっさり積もると、ふとしたきっかけでその上層部が一気に滑り落ち、表層雪崩を起こすんです。これは凄まじい破壊力を伴っており、家一個くらいは軽くなぎ倒して空中を数百メートルも吹き飛ばすことがあります。雪崩一つで十数人の登山隊が全滅することなんざざらにあり、ひどい時には村一つを丸々滅ぼしたこともあるくらいです。そのスピードは最速で音速をも超え、逃げるのが不可能な状況が多いんですよ」
「それは……確かに人間技じゃ無理そうだな」
「まあその通りです。しかも一度埋まってしまえば数メートルの厚さの雪の下ですから自力での脱出は非常に困難で、窒息と凍死がダブルで迫る魔の時間帯へと突入します。単独での登山時に遭遇すると、まず絶望的だと言えるでしょうね。
何でも噂じゃ銃器っていう火薬による爆発で弾を飛ばす武器類の使える外国の雪国のスキー場では、新雪がどっさり積もった日にはその危ない場所に大砲をぶっ放したり、空を飛ぶヘリコプターって機械でもって爆弾を投下して大爆発を起こし、人工的に雪崩を発生させるという裏技を使用して、事前に防いでいるそうです」
「ほおお……なんだかわからないけど、そりゃ豪快なこったな」
物騒な話好きのバレオンは、本多の山うんちくに次第に引き込まれていった。




