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カルテ721 石剣のバレオン その22

「そうですか……まあ、ここのシステム上、いつまでも建物の中にいるってわけにもいきませんし、確かに一人で下山したら無事帰ったとしても針の筵でしょうけどね。でも、そんな装備で大丈夫か?」


 急に本多の目つきが鷹のように鋭くなり、口調も真剣なものへと一変する。


「ええっ!?」


 いきなり詰問されて、バレオンは戸惑った。今は傍らに転がっているが、鎧はかなり値の張る質が良いものを使っているし、石の大剣に至っては言わずもがなの特注だ。別にこのヒョロヒョロ男に心配されるような筋合いはない。


「違う違う、防具や武器の話じゃないですよ。そんなの単なるこっちの世界の町医者である僕の専門外だし、知ったこっちゃありません」


 本多は緩やかに首を横に振った。


「じゃ、じゃあなんだって言うんだい、ホンダ先生?」


「あなたのその、登山用の装備のことですよ」


 本多は玄関先に並べられている、バレオンが使っていた毛皮製の長靴を指し示した。


「これがどうしたんだ? 北国に住む大鹿の毛皮をわざわざ取り寄せて作らせた特注品だぞ? すげえ暖かくて水虫が出来ちまいそうなくらいだぜ」


「それはいいんですけど、靴底に滑り止めのアイゼンや、雪にはまらないためのスノーシューも無しじゃ、この先とてもやっていけませんよ。氷のような凍った氷原と化した雪道は滑ってとても危険でクレバスまで直行しかねませんし、急激に深く積もった新雪を普通のブーツで踏んで進むのはすげえ労力と時間を食います。僕の地方では昔は輪かんじきなんてものを靴に取り付けて豪雪の中を登っていたと聞きます」


「そ、そうなのか……そいつは気がつかなかったぜ。確かにちょっと登りにくいなと感じてはいたんだが」


「ちょっとどころじゃないですよ! あなたただでさえバカでかい剣とか持っているんだし! 杖などに使うピッケルとか、命綱用のザイルとかも何も持ってないじゃないですか! 山歩きに目覚めたばかりの無知なおっさんそのものですよ!」


 今や本多は山男の祖父が乗り移ったかのように絶好調だった。

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