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カルテ720 石剣のバレオン その21

「あの爺様は本当に筋金入りのド変態山男でして、昔深山で遭難して熊に遭遇した時、相手がメスだったもんで熊の胸をとっさにムニッと揉んだところ、思いのほか熊が動揺したのでそのまま後ずさって逃げたら、熊が前足で手招きしていたってバカ話をしてくれたりして、『おいでおいでの熊さん』なんてタイトルまでつけてましたが、大人になってよく考えてみたら熊のおっぱいはそこにはねえよ! いいかげんなことばっか純真な子供に吹き込みやがってあのクソエロ爺めうがああああああああああ!」


「先生、おちついでくれ! てか何の話だよ一体!?」


「ぎょふっ!」


 簀巻き状態からなんとか自力で脱したバレオンは、興奮して両手をワキワキさせながら叫び声をあげる本多の頭をぶん殴りつつ石の大剣の切っ先を突きつけて強引に黙らせた。


「おおっと、お騒がせしてすみません。ちょっと脱線し過ぎちゃいました。しかし、今後どうします? また、あの魔の山登りに戻るつもりですか? 今のままでは冗談抜きで十中八九死ぬと思いますが」


 頭部にコブを作った本多がエア揉み揉みの変なポーズのままバレオンに向き直った。


「……」


 石剣をおさめたバレオンは、簀巻き布団の中にペットボトルを突っ込んで無理矢理温めたとかいう生ぬるいお茶をゴクゴク飲みながら、目の前の医師の奇行を見るともなしに眺めつつ、どうしたものかとぼんやり考えていた。だが、答えはとうの昔に出ていた。


「ああ、せっかく復活させていただいたところ悪いが、俺はこう見えても赤竜騎士団団長兼オーファン作戦実行部隊の隊長っていう責任重大な立場なんで、一人尻尾巻いて逃げるってわけにはいかねえんだよ。可愛いひよっこの部下たちが凍えて待っているんでな」


 彼はお茶を一気に飲み干すと、ゲップと一緒に決意表明を勇ましく吐き出し窓の外を見つめた。外では相変わらず疲れ知らずの雪の精霊が生み出すブリザードが吹き荒れていた。

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