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カルテ715 石剣のバレオン その16

「こ……これはすごいですね……この方は……ふ……不審者ってわけじゃなさそうだけど……生きてる!? おーい!」


 本多はしばし雪まみれになって床にうつ向けに倒れ伏す鎧姿の中年男に対し呆然となった。ちなみにバレオンは長髪を後ろでピンク色の紐で結んでいるというちょっとファンキーな髪型で怪しさ抜群だったが、どう見ても危機的状況だったので、本多はすぐに職業的倫理観に立ち返り、声をかけたり、仰向けにして雪をはたきながら脈をとったりした。


「駄目だ! 起きねぇ! JCS300だわこりゃ! 測りにくいけどかなりの徐脈だし、顔色も真っ青でチアノーゼに近いよ!」


 彼は胸ポケットから体温計を取り出し謎の男の脇に当て、しばらく待った。暗がりの中、受付に置かれた赤毛の人形だけがそれを見守っていた。


「これは……けっこう低いな。28度か……。35度を下回っているので低体温症の範疇じゃないか!」


「お……おい、ここは……?」


 その時、奇跡的に男の口元が動いたのだが、本多は気づくどころではなかった。


「やべえ! こりゃどうみても中等度の偶発性低体温症だ! 雪山登山でやられたな! お湯でも沸かしてき……って、そうか、今無理でしたわ! てかそれじゃあかんわ! えーっと……」


 ここにはガス機器が何もないのだから、停電が生じてしまうとどうすることも出来ない。本多は顔をしかめて悩んでいたが、膝に手を当てビシッと立ち上がった。


「よし、ここは昭和の山小屋方式でやるとしよう!」


「な、なんだって……? ちなみに俺はバレオンっていうんだが……ここはひょっとして……」


「おっ、あなた、意識あったんですか! ちょっと待っててくださいよ! 今色々温める用意しますからね!」


「……そ、それってあれか? お互い裸になって身体で抱き合うってやつか……?」


「違うよ! それラブコメかなんかでよくあるやつだよ! てかああいう話ってスキーに行ったらほぼ確実に遭難して無人の避難小屋みたいなところに辿り着くのってなんでだよ!?」


「……言ってる意味がさっぱりわからんが……それで、具体的にはどうするんだ……?」


「おっと、そうだったわ」


 瀕死の男の的確な突込みで我に返った本多は、天井を見上げた。


「二階からありったけの毛布を持ってきます! 後は…そうだな、なんかでっかいビニールシートがいる! おっと、それからもう一つ、電子ジャーもいるんだったわ! しゃもじも用意しなくっちゃ!」


「……はぁ?」


 話についていけず、男は再び意識を失いそうになった。

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