カルテ714 石剣のバレオン その15
「うう……寒い……凍えるよぅ……」
真夏にもかかわらず、本多は白衣の上に更にどこかから引っ張り出してきた冬物の黒いオーバーコートをまとい、ぼやいていた。ちなみに現在彼は椅子の上に立って小さなペンライトを天井から紐で吊るす作業に追われていた。現在停電復旧の目途はなく、揺れるライトの灯りのみが室内をほのかに照らすのみだった。
それは本来患者の口腔内を調べたり、瞳孔を覗き込むときに使う診察用のものであり、電池もだいぶへたっており、光量は室内全体を照らすほど強くはないが、食事程度に使うのであればないよりはマシ、というレベルの代物だった。
「まったく、異世界まで来ちゃったからには電力会社に知らせるわけにもいかないし……どうすりゃいいんだよ!? ていうか村井ちゃんはちゃんと無事に帰れたのかよ!? くそ! 何故か上手くいかない! 加齢で指先のうるおいが無くなったせいか!? ふぅ……」
本多は慣れない手つきで紐を結びつけようと焦りながら独語を連発していた。
「ええい、てか早く明かりがつけばいいんだよ!」
もはや逆切れ状態の本多は一人何やら騒いでいたが、何とか作業を終えると、椅子からゆっくりと降り立った。
「やれやれ、やーっと終わったよ。これでようやく夕食にありつけるってもんだよ」
彼はまた椅子に座り治したが、状況は悲惨だった。
「もうだいぶ冷めちゃってる……。どうやら雪の山中に転移した様子で、屋内の気温が下がる一方だったせいだ……。ひどいよ! せっかく楽しみにしてたのに! 温めようにもIHも電子レンジも使えないじゃないか! うちには囲炉裏なんて無いのよ! まだ温かいのはお釜の中のお米だけだよ! うがあああああああああああああ食い物の恨み!」
腹を空かせてケダモノ状態となった本多がわめいていると、急に玄関の方で何やら大きな物音がした。
「な、何だよ、今のは!? こんな場所でお客さん!? とりあえず行ってみるとしますか、どれ……」
ほぼ暗闇の中を中を入り口まで進んでいった彼は、そこで雪だるま状態となって倒れているバレオンと初対面を果たした。




