カルテ711 石剣のバレオン その12
こうして極秘裏のうちに作戦の準備は初秋から着々と進行していったが、前代未聞の計画なので、志願者たちは皆極度に緊張し、しかも生きて帰れるかどうかわからぬ非常に危険な任務のため、ドラゴン退治に挑む冒険者のごとく、悲壮な覚悟を決めていた。
そんなひよっこ隊員たちの危うげな精神状態を、隊長のバレオンは持ち前の明るさと豪胆さでほぐし、剣の稽古も存分につけてやり自信をつけさせてやった。
「なあに、至って簡単なことさ。いくら城塞で守られているとはいえ、冬の離宮なんて警護は緩いし少人数ならいくらでも潜入方法はある。要は冬山登山をやり切っちまえばこっちの勝ち確定ってなもんよ。登る方はちぃっときついが頂上まで行ってしまえば後は雪の上をスイスイスーイと滑り降りるがごとくってやつよ。まあ、そんなに気張んなくてもいいから、ちったあ肩の力抜いていこうぜ!」
彼のこういう話しぶりで、皆なんとなく成功するんじゃないかという淡い期待を抱くようになり、徐々に楽観的になっていった。
さて、いよいよ冬も半ばとなり、いざ白魔の山に挑んでみると、天候に恵まれたせいもあってか途中までは思ったよりもスムーズに登山ははかどり、ビバークを繰り返しながらも順調に進んでいった。バレオンなど、重い剣を携えながらも更に重い荷物を担ぎ、のんきに山男の歌まで歌っていて、副隊長のスキリージにたしなめられたほどだった。
しかし、山はそんなに甘くない。五合目を超えたあたりから、突如猛吹雪が一行を襲い、一寸先もわからぬほどの雪すだれとなった。皆最初のうちは雪だるま状態となりながらも、野営予定地までは到達しようと、積もった雪をかき分けかき分けどうにかこうにか行進していった。だがやがて一人また一人と足が止まり、気がつくと先頭のバレオンはただ一人きりとなり、雪深い森の中をあてもなくさまよっていた。
そして運悪くあの年若い大熊と遭遇したのである。




