カルテ710 石剣のバレオン その11
そんな一見ふざけた剣を帯びるにもかかわらず、バレオンの腕前は衰えるどころか冴えわたり、並ぶ者無き無双状態で、ついにはグルファスト王国の男子なら誰でも憧れる、国歌にも歌われる赤竜騎士団の団長にさえ抜擢され、国の守護神と呼ばれるまでに至った。
名誉には疎い彼も剣の道に生きる者としてさすがにこれには感無量であり、いつまでもこんな幸せな時間が続けばよいと、心底願ったものであった。
だが、時は血で血を洗う群雄割拠の戦国時代であり、グルファスト王国は何度も戦火に晒され、特に北方のインヴェガ帝国が何度も国境を侵し、王国側に攻め込むことを繰り返していた。
グルファスト王国とインヴェガ帝国の戦いは熾烈を極めた。一時期は王国の商都であるメジコンの街まで帝国軍の奇襲によって乗っ取られ、その周辺が何十年にも渡って支配されていたことがある。
現在は、帝国側では「メジコンの惨劇」、王国側では「メジコンの奇跡」と呼ばれる謎の大火で街は丸ごと消失し、やむなく帝国軍もガウトニル山脈の向こうまで引き上げていったが、時たま思い返したように再び攻め込んできては小競り合いを続けていた。
これを時のグルファスト王国国王・ランドセンは深く憂い、対抗策を考えた。その結果、腕に覚えのある百名の勇敢なつわものを招集し、冬の真っただ中にあえて雪に閉ざされたガウトニル山脈を登り、帝国の南端部にある冬季の離宮アドナを訪れるインヴェガ帝国皇帝を暗殺するという、到底正気とは思えない決死作戦を立案し、遂行を決定とする勅令を下した。
なお、コード名は五百年に一度、突如天空に現れる赤い彗星の名にちなんで、オーファン作戦と名付けられた。
そして、その決死隊の隊長として白羽の矢が立ったのが、他ならぬ「石剣のバレオン」(もしくは「少女剣のバレオン」)その人だった。家名と勇猛さの両点からいって、彼は極めて適任であったし、彼を慕う若者も下級貴族には多かったため、難航するかと予想された隊員の確保は割と順調に行われた。




