カルテ709 石剣のバレオン その10
バレオンの生家はグルファスト王国に代々仕える由緒正しい家柄の貴族であった。彼は若い頃から学問よりも武芸の方が大好きで、特に剣技に余念がなく、寝食を忘れて日夜剣の練習に没頭するほどであった。飲み込みが早いため上達スピードも群を抜いており、十代前半で剣の師を打ち負かすほどの腕前となった。
成長するに従って並外れた背丈を持つ筋骨隆々とした大男になったが、筋力の強さに頼らずに更なる剣術の研究を重ね、独自の技も開発していった。
幸いというべきか次男坊であったため、後を継ぐ必要もなく、一人でふらっと剣の武者修行の旅に出ては名のある剣士と勝負をしたり、用心棒まがいの仕事をこなしたり、各地に出没する魔獣を退治するなど冒険的な日々を送っていた。
しかしそんな自由な日々も終わりを告げる時が来た。家督を継いだ五歳年上の兄がふとしたことから流行り病にかかってあっけなく亡くなり、妻はいたものの子供はまだだったため、急遽家に戻れと矢継ぎ早に催促の手紙が届き、嫌々ながらも故郷に帰る羽目となった。
そしてなんだかんだあってお見合い同様に他の貴族の淑女と結婚させられたのだが、いざ子供が出来ると剣の修羅だった男がたちまちただの親バカと化し、セレニカと名付けられた娘にメロメロになった。
三十を過ぎてから出来た初めての子供ということもあったのかもしれないが、母親以上に娘の遊び相手をし、普段は魔獣にも匹敵するほどの野太い声なのに無理して裏声で子守唄を歌ったり、言葉がわかるようになってからは毎晩ありったけの昔話を聞かせてやった。そのためかセレニカもゴリラのごときごつい父親によく懐いて、彼が家にいる時は片時も側を離れることは無かった。
あまりにも親バカ過ぎるバレオンは、その頃から何故か使い出した巨大な石製の大剣の一部を削り取って、そこに娘の肖像を刻ませた特注のメダイオンを埋め込み、その剣にまで「セレニカ」と名付けるほどだった。こうして彼は、本人は「石剣のバレオン」と自称しているのだが、いつしか周囲からは「少女剣のバレオン」というかなり恥ずかしい二つ名で呼ばれるようになった。めでたしめでたし?




