カルテ697 怪球カマグ(前編) その85
「なに、今は二人とも同じ帝国兵士なわけだし、訓練であれば戦闘は十分可能だ。なんなら私自ら稽古をつけてやってもよいぞ。この風のハラヴェンで一つ揉んでやろうか?」
団長が傍らに置かれた魔封剣を振り返ると、悪魔の笑みを浮かべる。
「「「ハッハッハッ、そいつはいい考えですね! 団長殿の華麗なる剣さばきでズンバラリンにされてロースやらヒレやらカルビやらタンやらハツやらモツやらに解体されないよう、せいぜい気をつけろよ、ケルガー! 牛骨なら拾ってスープの出汁にしてやるぞ!」」」
「チェンジ! やっぱりこのクソ犬相手で充分です、団長殿!」
舌の根も乾かぬうちに、ミノタウロスは意見をひるがえした。
「フッ……」
ヒュミラの方はといえば、軽くほほ笑んだだけで、何も答えなかった。
「んで、もったいぶらずにそろそろ教えてくださいよ。一体どこのどいつがマトなんスか、団長? 教えてもらえりゃひとっ走り行ってきて首チョンパしてすぐ戻ってくるわ!」
「「「お前、今までの話を聞いていてわからなかったのかよ!とっくにおっしゃられているじゃねえか! 天然の鈍感ちゃんなのかようがあああああああああああ!」」」
またしてもブチ切れたケルベロスが三つの口とも限界まで開いた後、まさに毒の唾を吐くかのように頬を膨らませる。だいぶストレスが溜まっているようだ。
「まあ許してやれ、ホーネル。こいつは昔から勘は鋭いくせに、誰もが間違えないような箇所で、うっかり凡ミスをしてしまうタイプだった。いいか、ケルガーよく聞け。まずこの話の冒頭を良く思い出せ。一体何があった?」
まるで物分かりの悪い生徒に根気よく勉強を教える教師のように、ヒュミラが優し気に問いかける。馬鹿にされているみたいでケルガーは内心ムカつくも、確かに自分にはそういう点があるわと思い直し、特に反論はせず、先ほど聞いたばかりの物語を頭から反芻する作業に取り掛かった。




