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カルテ669 怪球カマグ(前編) その57

「くそっ、役立たずのアリンコどもめ! 何かわからんが根性見せて戦えや!」


 狂犬のごとく無駄に吠えまくるセフゾンを残酷なほどの哀れみをもってねめつけると、クラリスは脚に翼でも生えたかのように颯爽と室内を疾駆し、たちまちのうちに距離を詰め、彼を通り越すと扉の前に立ちふさがった。


「く、来るんじゃねえ、ボケェ!」


「カタプレス!」


 彼の罵り声をかき消すような大きさでクラリスは呪文を叫びつつ、再度右手の剣を華麗に振るう。瞬時に発生した無数のかまいたちは反転して逃げ出したセフゾンの背中に今度こそ命中し、黒装束をズタズタに切り刻んだ。


「ぐあああああっ……とでも言うとでも思ったか?」


 なんと彼はひげ面の顔にいかにも得意気な喜面を貼りつかせた。血が一滴も流れ出ず、まったく動じない所から察するに、どうやら服の下に何か着込んでいる様子だ。


「……まさか、全身に鎖帷子を?」


「正解だぜ、お嬢ちゃん! イーブルエルフの連中は血気盛んな手合いが多いので、荒事がある時なんかは面倒だけどいつもこいつの世話になっているんだよ。全く、油断せずに装備しといてよかったぜ! ヒャッハー!」


「フン、それはどうでしょうか? カタプレス!」


「おおっと!」


 会話を遮るように魔封剣で切りかかるクラリスから、セフゾンはバックステップで素早く離れる。いつしかお互いの立ち位置はすっかり逆転していた。


「ケッ、こちとらてめえより先に暗闇にいて目が慣れているんだ! そんなに何度も食らうかよ! 俺様が負けるわけねえだろうが!」


「いえ、もうとっくに勝敗は決しています。あなたの負けです、セフゾンさん」


 クラリスの声が一抹の情けをも感じさせない裁判官の判決の言い渡しのごとく室内に響き渡った。


「そんなバカなハッタリが通用するとでも思うのか? 勝負はこれからだろうが!」


「足元をよく見てください」


「足元って……ええっ!?」


 彼女に言われた通り足下を見下ろしたセフゾンは、驚愕と共にすべてを悟った。

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